最近のUSB充電器では60Wや100Wといった高い出力を持つ製品が一般的となりつつありますが、そんな中UGREENはまさに規格外とも言える500WのUSB充電器を市場に投入しました。性能評価はもちろん、分解してその性能や内部構造がどのようになっているのか検証していきます。

またこの記事の内容は既にYouTubeで動画を公開しています。まだ見ていないよという方は是非こちらもあわせてご覧ください。
UGREEN 500W USB充電器の外観と特徴
まずは製品の外観から見ていきましょう。この充電器を最初に手にした感想は「でかい」の一言に尽きます。よく見かける1ポートのUSB充電器と並べてみるとクソコラみたいなサイズ感です。


重さを測定してみると本体だけで1,595g、付属の電源ケーブルを含めると1,854gと2kgが見えてくる重量感です。小型の充電器のように気軽に持ち運ぶというよりは、会議室のデスクや自宅の作業スペースに常設して使用することが想定されている製品、もっといえば充電器より電源装置然としています。


ちなみにUGREENは以前にも300Wという大電力のUSB充電器を発売しており、今回の500Wモデルはその上位版という位置づけかと思われます。こちらも以前に分解レビュー動画を公開していますので、是非あわせてご覧いただけますと幸いです。

各ポートの出力について
このUGREEN 500W充電器には合計でUSBポートが6つあり、USB-Cが5つとUSB-Aが1つの構成です。

全てのポートを合計すると500Wの同時出力が可能なほか、最上段に位置するC1ポートは240Wが出力できる仕様となっています。これはUSB PDの最新規格であるExtended Power Range(EPR)で48V/5Aの組み合わせで出力が可能なことを意味しており、実際にUSB PDトリガーで確認したところ問題なくネゴシエーションが確認できました。

市販の充電器で140W(28V/5A)を超える、36Vや48Vを出力できるものは記事作成時点(2025年11月)で非常に少なく、この点だけでも本製品の挑戦的な仕様が伺えます。また、240Wを受電できるデバイスについてはほぼ存在していないような状況です。
なお出力について、6ポートあるためマルチポート使用時の電力振り分けについても組み合わせが多いのですが、代表的な組み合わせについては取扱説明書にイラストで記載がありました。

これらの組み合わせを見るに、それぞれのポートについてはだいたい以下の対応となっているようです。
- C1: 他のポートの使用状況にかかわらず240W出力が可能
- C2〜C5 1ポート使用時: 最大100W
- C2〜C5 2ポート使用時: 100Wを出力可能
- C2〜C5 3ポート使用時: 100W, 100W, 60W もしくは 100W, 60W, 60W の組み合わせ
- C2〜C5 4ポート使用時: 全て60W
- USB-A: 最大20W
C1ポートについてはどうやらどのような組み合わせであっても常に最大240Wが出力可能なようです。また、複数台の接続についても軽く検証したところ、途中で機器を追加した場合であっても既存のポートへの給電が瞬断されることはありませんでした。これはなかなかよい仕様かと思います。

性能評価
ここからは実際の測定結果を元に、この充電器の性能を掘り下げていきます。
スペック比較

まず、一般的な45WのUSB充電器(Anker製)と、定格や性能指標となるスペックを比較してみます。500Wのサイズ感なので規模が大きく違うのは当然ではありますが、一応面白い傾向が見て取れます。
| 項目 | UGREEN 500W | Anker Nano Charger 45W | 比較 |
|---|---|---|---|
| 定格電力 | 500W | 45W | 約11倍 |
| 体積 | 1091 cm³ | 38.7 cm³ | 約28倍 |
| 表面積 | 687 cm² | 68.8 cm² | 約10倍 |
| 質量 | 1595g | 58.9g | 約27倍 |
まず基本スペックとして本体の定格電力と、体積や質量の関係を見ていきます。
定格電力は45Wに対して500Wの11倍にあたる一方で、体積や質量は20倍以上と大きく増加していることがわかります。ただしこれはAnkerが単ポートの製品であるのに対しUGREENがマルチポートであることも影響しており、内部の回路方式や冷却構造、筐体を支える部材の量が大きく異なるためと考えられます。
ちなみにAnker Nano Charger 45Wで使用している数値はイチケンが 以前の検証で実際に測定したもの です。

次に、電源の性能指標を見ていきましょう。体積あたり電力でみるとUGREENは0.458W/cm³とやや不満の残る結果でした。これもマルチポート化に伴う内部構造の複雑さが影響していると思われます。
ただし表面積あたりの電力損失を実測値から計算すると45Wの製品より低く、放熱には比較的余裕がある設計と推測されます。

なおUGREEN同士の比較として以前から販売されている UGREEN Nexode 300W 充電器 と比較すると、500W版では体積あたりの電力が低くなる一方で放熱に関する数値も小さくなっており、より余裕を持った設計になっていることが見て取れます。

なおこちらの製品についても過去にレビューを行っています。
電力変換効率の測定
次に性能のベンチマークとして電力変換効率の測定を行いました。電力変換効率とは一次側(コンセント)から入力された交流電力を、どれだけ無駄なく二次側の直流電力に変換できるかを示す数値で、効率が高いほどUSB充電器本体内部での損失が少なく発熱も小さくなります。

まず、C1ポートを単体で使用した場合の効率がこちらです。5Vから48Vまでの電圧において、最大電流値の1/10ステップずつの負荷を取り出した際の効率をグラフにしました。
他のUSB充電器同様に効率が低くなる低消費電力時を除いて、全体的に非常に高い効率を示しており、240W付近まで効率が落ちることはありませんでした。特に高電圧・高出力時に効率が高くなるようで、これは定格500Wの電源をキャパシティの半分程度という最も効率の良い領域で使っているためと考えられます。


一般的な充電器で使われる5V〜20Vの範囲(USB PD SPR領域)と28,36,48VのEPRの領域でそれぞれ評価してみます。
SPRの範囲では最高効率93.39%を記録しました。これはイチケンがコレまで検証してきた~100Wクラスの充電器の中でも優秀な部類に入ります。またEPRで利用される28V以上のレンジでは効率はさらに向上し、48V出力時には94.27%という非常に高い数値を達成しました。
このほか海外での利用を想定して200Vを入力した際の効率も測定しました。二次側で消費している電力は合計500Wです。

結果として、200V入力時の方が全体的に1〜2%効率が高くなりました。特に300W以上の高負荷領域ではその差が顕著に現れ、500W出力時には電力損失で10W近い差が生まれました。これは、入力電圧が高いほど回路に流れる電流が少なくなり、損失を低減できるためです。

また入力電圧の違いを電力損失で見ると500W出力時には10W以上も差がつくような形になります。変換回路に流れる電流が電圧200Vの際のほうが少ないため、そのあたりが大きく効いているものと思われます。
補遺
ちなみに6ポートの製品ともなると効率測定もなかなか大変なセットアップを必要とします。メインとなる240W(48V5A)のトリガと電子負荷への入力自体は問題なく行えるのですが、その他に~100W程度を安定して流せる電子負荷が追加で5台ほど必要になります。

発熱について
使用時の本体の発熱についても確認しました。全ポートを使用して500Wの負荷をかけた状態で、本体表面温度をサーモグラフィーで測定しています。なお、充電器本体には黒体テープを貼り付けています。

温度が一定となった時点での最高温度は68℃とそこそこ熱くなっていました。熱の分布を見ると内部の発熱源から熱が伝わっている部分が四角く浮かび上がっており、筐体全体で均一に放熱されているわけではないようです。外装への熱の伝わり方については後ほど分解して確認します。
サーマルスロットリングの動作検証
近年のUSB充電器では高負荷な状態が続いた際に、過熱によって内部の部品や回路が破損するのを防ぐため出力を意図的に制限する「サーマルスロットリング」機能が搭載されていることがあります。UGREENでもThermal Guardと呼ばれる機能が実装されているようなので、この500W充電器についても動作を確認してみました。

サーマルスロットリングの動作について時間でグラフに纏めたものが上記の図です。本体温度の上昇ともに出力電力が段階的に制限されていることが分かります。

まず500W連続出力を始めてから60分程度経過し、外装温度が約70℃に達した時点でC2〜C5ポートの出力が60Wから45Wに低下。その後も温度は上昇を続けすぐに第2段階の制限がかかりました。
第2段階ではC1ポートが240W出力可能な48Vから36Vに制限され、合計出力は380Wに。その後180分経過時点で第3段階としてC5ポートが15Wまで制限され合計で出力可能な電力は350Wとなりました。


なお、今回の実験環境下では第3段階の動作を続けると本体の冷却に余裕が出たのか、ある段階で第2段階の状態まで出力が回復。その後は再び放熱が追いつかなくなり第3段階に突入を繰り返す、といった動作となりました。この動作から本製品の連続出力電力は350W程度という事になるかと思います。
ちなみに後ほど分解して分かることですが、C1ポートについては他のポートから独立した構成をしているものの、他ポートの影響を受けること無く常時240W出力が可能というわけではない点には注意が必要です。ただし350W程度の出力状況であれば放熱も追いつくようなので、C1ともう1ポート程度まではフル出力でも問題ないかと思います。
分解して内部構造を徹底検証
ここからは実際に分解して内部の構造や回路構成を確認していきたいと思います。
外装部分

外装を剥がすと内部では充電器の回路部分が独立しており、4側面に貼られたシリコン系の熱伝導シートで外装の樹脂部品に熱を伝えるような構造となっていました。

小型の充電器で見られるような内部にシリコンポッティング材が隙間なく充填されているわけではなく、熱伝導シート以外の四隅の部分などでは空間があり、これがサーモグラフィーで見た熱分布のムラの原因かと思われます。


内部回路を覆っていたアルミ製のシールドを外すと、その下には樹脂板があり、その内側と基板面の間には熱伝導のためのシリコン系ポッティング材が大量に充填されていました。全てのポッティング材をはがしてみると重量は実測で約677g、外装との間に貼り付けられていた熱伝導シートと合わせると761gにもなり、本体重量の約47%が放熱材料で占められているという驚きの結果となりました。
熱伝導についてのお話
本体重量の約半分というこれだけの熱伝導材料を使いながらも冷却が難しい理由はその構造にあります。

一般的な充電器が「熱源→ポッティング材→外装」というシンプルな経路であるのに対し、この充電器は「熱源→ポッティング材→プラスチック→アルミ板→熱伝導シート→外装」という多層構造になっています。層が増えるほど熱抵抗は増加し、熱を外部に逃がすことが難しくなります。
またここまで分解して見てきたように、各層は完全に密着しているわけではなく隙間が存在していました。熱抵抗をさらに高める要因となっており、強制空冷のためのファンを使用しない密閉構造で大電力を扱うための苦労が垣間見えます。
基板と回路構成の概要
ポッティング材を全て取り除くと、内部の基板はこのような構造になっていました。(はんだ付け箇所も分解した状態)

USB充電器によくあるように基板は複数存在しており、メイン基板、USB基板、そしてパワー半導体を実装した差し込み式の基板2枚の、合計4枚で構成されています。
一次側
まず一次側の入力部には、500Wという大電力に対応するため大型のインダクタやキャパシタで構成されたフィルター回路が搭載されていました。本体の発熱も大きいため、温度管理のためのサーモスタットと思われる部品も確認できました。

整流回路ではブリッジダイオードは使わず「理想ダイオード回路」が採用されています。ダイオードでの電圧降下による損失をMOSFETのオン抵抗による損失に置き換えることで、電力損失を大幅に低減する事が可能となっているかと思います。
また興味深いことに基板背面には金属製のチップが実装されていました。IC部品の反対側に位置するように配置されており、恐らくはポッティング材への熱伝導をサポートするために設けられた部品かと思います。


ちなみに使用されているICはNXPセミコンダクターズのコントローラーICTEA2208Tと、重庆平伟实业股份有限公司製のPWE050N65SFTKというパワーMOSFETです。

力率補償回路

本体中央に位置する大きなインダクタは力率補償回路(PFC回路)のものです。力率補償回路については全く同じ回路が2つ並列に搭載されており、交互に動作させる「インターリーブ制御」が行われているようでした。本体の電力が500Wクラスということもあり、USB充電器ではまず見ないようなサイズのインダクタが搭載されています…
ちなみにインターリーブ制御についてはPCのマザーボードなどで採用されている事例を過去に解説していますので、もしきょうみがあればこちらもあわせてご覧ください。



ちなみにインダクタが実装されている部分をよく見てみると基板上のレジストがなく、露出した銅箔(恐らくはんだ処理済み)パターンが設けられていました。ポッティング剤が流し込まれていることからも、よりインダクタとプリント基板を熱的に結合する目的があるものと思われます。
ちなみに制御回路については受動部品とは反対の面に実装されていました。パワー半導体にはInnoscience製のGaN-HEMTINN650TA080BSと、Senguoke(センゴク)製のSiCショットキーバリアダイオードKS10065Nが採用されており、非常に豪華な構成と言えるでしょう。

電圧変換回路部分
力率補償回路のあとは絶縁型コンバータに入っていくわけですが、こちらについては非対称ハーフブリッジ方式のものが2回路搭載されているようです。簡単に回路構成を追ったところ、1つは240W出力のC1ポート専用、もう1つはC2〜C5およびA1ポートで共用されるような構成です。


パワー半導体については2回路分まとめて小さい子基板に実装されていました。ここでもInnoscience製のGaNパワー半導体INN700D140Cが採用されており、近年の中国メーカー製電源における同社の採用率の高さが伺えます。制御用コントローラは、台湾MediaTekグループのRichtek TechnologyRT7795でした。


変圧器の温度を監視するための温度センサも搭載されており、徹底した熱管理が行われていることが分かります。またサーモグラフィーの映像でも本体側面、このフロント側に近いあたりが一番発熱していましたので、DC/DCコンバータ部分の発熱がやはり一番大きいものと思われます。

USB基板部分の実装
そして最後 USB基板を見ていきます

製品の正面側にあたるUSBコネクタが実装された基板上にC2~C5とA1ポート用の電圧変換回路が設けられていました。インダクタや、高分子/個体系と見られる電解コンデンサが実装されており、パワー半導体も一緒に実装されています。こちらはiSmartWareのSWT40N45です。

基板裏面を見てみるとiSmartWareのコントローラICSW3561Hが実装されていました。PDの通信制御と降圧コンバータ回路がひとまとめにされた製品用です。
ちなみに240Wが出力可能なC1ポートについてはコントローラICはUSB基板側には実装されておらず、メイン基板側の嵌合部部分近くに実装されていました。こちらのICはRichtek製のPDコントローラRT7209とのことです。


ここまでの検証でC1のポートについては他のポートとは独立した回路構成になっていることが分かっています。要するにUSB基板側に供給された電圧を別個に変換(主に降圧)する必要がなく、専用回路を上流のコンバーター近くに設けてしまうような構成としているものと思われます。
ただしUSB PD給電にはCCラインを用いたシンク側デバイスとの通信が必要となるため、そのための配線パターンについては基板の嵌合部にパターンが設けられていました。
補足
ちなみにメインの動画ではあまり言及がありませんでしたが、USB回路部分の基板には傾斜センサBL1250が実装されています。恐らくは中国系のメーカーの製品かと思いますがフォトインタラプタタイプのものかと思います。

詳しい動作検証は他のレビューに譲りますが、一定期間以上こちらの傾斜スイッチが動作していると本体が倒れているものと判断して出力が制限されるとのことです。なので横置き使用は想定されていないという点に注意が必要なのと、この傾斜センサの中に鉄球が入っている都合で本体を振るとカラカラと音がなります。
まとめ

というわけで今回はUGREEN 500WUSB充電器の分解レビューを行ってきました。特に高電圧・高出力時において非常に高い電力変換効率を達成している一方で、連続高負荷時には他のUSB充電器と同様にサーマルスロットリングが作動し、実質的な連続定格出力は350W程度であることがわかりました。
実売価格で2万円台後半と決して安い製品ではありませんが、複数の高出力デバイスを同時に、かつ安定して運用したいユーザーにとっては、魅力的な選択肢の一つとなるかと思います。
またYouTube上では動画の形でレビューを行っています。サーマルスロットリング動作の検証結果などもよりわかりやすくまとめていますのでもしお時間のある方はこちらもご覧いただけますと幸いです。
最後までお付き合いありがとうございました。



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