最強のハンダゴテが決定した。gootのPX-280をレビュー

みなさん普段はんだ付けをする際はどのはんだごてをお使いでしょうか。廉価なニクロムヒータータイプや、加熱性能が優れているセラミックヒータータイプ、また、業務ではんだごてを使用しているという人はステーション型のはんだこてなども馴染みが深いかと思います。

今回はgootの太洋電機産業から発売されているPX-280について、その使い心地から中身の構造まで確認してみたいと思います。なんとデジタル式の温調はんだこてでありながら、ペン型のサイズに全て納めてしまったというすぐれものです。

なお、本記事は以前イチケンのYouTubeチャンネルで公開したレビュー動画に沿ったものとなっています。詳しい使用感などは是非動画も合わせて御覧ください。

目次

PX-280の特長について

こちらのはんだこてがgootから発売されたデジタル温調はんだこての「PX-280」です。2024年6月現在の実売価格は5,800円程度となっています。

これまでも温度調整機能の付いたペン型の製品自体はいくつか存在していましたが、ボタン(マイクロスイッチ)で一時的に加熱を強める製品や、なにかダイアルを回してヒーターに投入する電力をコントロールするという、比較的アナログな製品になります。

デジタル的に温度調整を行う製品として、はんだステーションというものがあります。これははんだこてのヒーター部分とは別に、温度調整をコントロールするための箱が別途ついているという製品です。

今回のPX-280ではこのデジタル的に温度調整を行う機構が全てグリップ部分に収まっています。

所有しているはんだこて

PX-280を購入して以降一部の用途を除いて普段使用するはんだこてが完全にPX-280になってしまっているのですが、イチケンではこれまでにも色々なはんだこてを購入しています。

特にこだわりを持っているわけではないものの、こうして並べてみるとイチケンの手元にあるはんだこては全てgootのものでした。恐らく日本国内ではHAKKO(白光株式会社)とgoot(太洋電機産業)の2強かと思います。

先程並べたはんだこてのうち、水色のはんだこて2本についてはヒーターがニクロムヒーターのものになります。セラミックヒーターのものと比較して廉価ですが、熱容量の大きいものをはんだ付けする際など、コテ先が銅の塊であるニクロムヒータータイプが重宝する場合もあります。

今回購入したPX-280ともう一本の白いもの (CXR-41) についてはセラミックヒータータイプになります。これまでメインで使用していたのがこちらで30Wのタイプです。PX-280を除いてこれまで使用していたはんだこては全て温度調節機能のないものになります。

こて台も購入しました

はんだこてを使用する上ではこて台も重要です。作業性に大きく関わります。

これまでこて台についてはHAKKOのもの(633-01)を使用していました。コテ先のクリーニングに使う金たわしタイプのクリーナーが下部にセットできるタイプのものです。スポンジに水を含ませる手間が無くてこれはこれで便利です。

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ただこれまで所有していたはんだこてが全てgootのものであることが分かりましたので、せっかくですのでgootのこて台も新しく購入してみました。

gootのST-27という製品です。コテ先クリーナーは昔ながらのスポンジと金たわしが両方セットできるタイプのもので、全体的にどっしりとしていてなかなか安定感の高い製品です。はんだカスがこて台内部に収まるような設計で周囲が汚れないのもかなり良いかと思います。

販売価格はだいたい3,000円程度。以前YouTubeで買ってよかったものを集めて爆買い開封のような動画を公開したことがありますが、そちらでも紹介していますのでぜひ合わせてご覧いただけると嬉しいです。

実際に使用してみる

ここからは実際にPX-280を使用してみたいと思います。ブログ記事でははんだ付けの結果しか乗せていませんが、動画本編では全てカメラの前ではんだ付けを行っていますので、さらに使用感などをよく見たいという方はYouTubeの動画もご視聴いただけると幸いです。

ちなみにPX-280ですが、ヒーターの熱容量としては80Wとなっており、電源を投入してみると350度の設定に約15秒ほどで到達しました。かなり早いです。

配線のはんだ付け

今回ははんだ付けのテストとして色々なものをはんだ付けしてみたいと思います。また、使用するハンダについても鉛入りはんだと鉛フリーはんだの両方を使用して、問題なくはんだ付けできるか、使用感はどうかなど検証していきます。

まずは配線への予備ハンダを試してみます。こて先の温度設定ですが、初期設定で350度となっていましたのでそのまま試してみたいと思います。ちなみに温度変更ですが、ぐるぐるとループしているマークのついたボタンを一度押すと設定モードに入り、DOWNとUPで変更することが可能です。(もう一度ループボタンを押すと確定)

左側が鉛入りハンダ、右側が鉛フリーはんだです。どちらの予備ハンダもかなりしっかりと溶け込んでおり、問題なく予備ハンダができることが分かりました。ハンダを供給した場合でもこて先の温度は350度を維持するように働いており、熱量が不足すると言った様子もありませんでした。

ワニ口クリップ

次にもう少し熱容量の必要なはんだ付けとしてワニ口クリップにリード線を取り付けていきたいと思います。クリップ根本の穴にリード線を通して折り曲げたあと、裏側にはんだ付けを行っていきます。

まずは鉛入りハンダです。配線単体でのはんだ付けより少し時間がかかる印象はありましたが、問題なくはんだが馴染んでいますので優秀と言えるでしょう。

裏側を見るとこんな感じ。はんだのなじみ具合に問題はありませんが、もう少しはんだを供給しても良かったかもしれません。次は鉛フリーはんだでも同じことをしてみます。

鉛フリーはんだの方が融点が高いため溶け込みまでに少し時間が必要となる印象ですが、それでも問題なくはんだ付け自体は出来ています。ですがせっかくの温調はんだこてですので、作業性を重視するのであればもう少し設定温度を上げてみるのも良いかもしれません。

PX-280の温度設定について、設定上は500℃まで上げることが出来ます。ただし通常の電子工作では逆に温度が高すぎてフラックスが弾け飛んでしまうなど作業性が下がる原因となってしまいますので、上げたとしても400℃程度が良いかと思います。

いずれにしてもその場ですぐに温度設定を指定した温度に変更できるというのがデジタル式温調はんだこての非常に優れた点です。

生基板ではどうか

次は回路の作り込まれていないプリント基板、生基板を用いてはんだ付けが問題なく行えるかを試してみたいと思います。

通常のプリント基板ではパターンに対して部品を接続するため熱量を必要とする場面は少ないですが、特に高周波の回路などを作成する場合には部品を銅箔面(ないしは大きめのパッドやランド)に直接接続する場面があります。その場合を模擬してみたいと思います。

今回こて先の温度設定は350℃と400℃で試してみました。基本的に鉛入りはんだでも鉛フリーはんだでも350℃の時点で十分に溶け込んでいることが分かります。

なお、400℃に設定した状態のほうがはんだの広がりが早いですし鉛フリーはんだを取り扱う際には余裕を持った温度設定とすることで作業性を向上させることができるのですが、はんだを供給した際にはんだ内部のフラックスが蒸発して爆発するような場面がありましたので、その点だけ注意して使用していただくのが良いかなとは思います。

こて本体について

ここまでざっくりと実際のはんだづけに使用して来ましたが、全体的になかなか良い使用感となっています。

PX-280ですが、まず購入時に「PX-28RT-S2C」という先が少し細くなりつつも平らになっているタイプのコテ先が付属しています。よく見かける鉛筆型のこて先と比べてはんだ付け対象物に効率的に熱が伝わるため、最初からこのタイプのこて先が付属しているというのはかなり好印象です。

また、作業性という面では握ったときの感触についても非常に良いと感じました。

本来ステーション型はんだこての箱にあたる機能が全てグリップの中に組み込まれていますので、グリップ部が異様に重かったりバランスが悪いという可能性も考慮していたのですが、実際に手に取ってみるとそんなことはなく、温度調整機能のないはんだこてと変わらない使用感で使うことが出来ます。

また見た目にもグリップ部分の形状も特に大きくなっているといった事もなく、握り心地も作業していて気になることはありませんでした。手袋無しで素手で握った場合でもこて先の熱が伝わってくると言ったこともありません。

交換コテ先について

こて先のオプションについてはメーカーの案内では9種類(ブログ執筆時19種類、インサート用コテ先等を含めると23種)がラインナップされています。

goot PX-280取扱説明書_2024_04 https://goot.jp/doc/manual/PX-280_280E_manual.pdf

鉛筆型からもっと太いコテ先、ホットナイフのように使用できるものまで幅広くラインナップされていますので、様々な用途に切り替えて使うことができる様になっています。

スリープ機能

また、今回のPX-280では6,000円弱という価格でありながらなんとスリープ機能が搭載されています。デジタル式になった恩恵の一つといえますが、かなり本気の製品です。

スリープ機能について、はんだこて本体を使用していない状態が続いた場合にこて先の酸化を防ぐため、温度設定を自動で下げてくれるという機能です。本体内部に振動を検知するためのセンサーが入っており、こて台においてしばらく経過するとこて先の温度を設定した温度まで下げてくれるほか、作業を再開した際には速攻で使用できる状態に戻してくれます。

その他のはんだ付けシーンは動画をどうぞ

ここまでワニ口クリップと生基板ではんだ付けを行い、本体についてざっくりとレビューをしてきましたが、動画の方ではこの他にももっと実践的なプリント基板や部品などの実装も試しています。

普段よく使いそうなスルーホール部品から小さなチップ部品、さらに鉛入りはんだと鉛フリーはんだでそれぞれ試していますので、是非動画にてご覧いただけると幸いです。

分解してみる

さて、使用感については控えめに言ってとても良いということが分かってきましたが、ここからはいつもの癖で分解して内部の構造などを確認してみたいと思います。ちなみにメインで使用するはんだこてになることは決定していますので、ちゃんと組み直します。

まず本体先端側の金属部品を取り外し、さらにボディを二分割するとこのような構造になっていることが分かります。緑色のメイン基板があり、先端のセラミックヒーターへの配線が伸びている形です。

基板を取り出してみるとこのように基板表側には表示用の液晶や操作用のボタンと、ヒーターの制御周りの半導体部品が一列に並んでいます。また、よく見ると液晶の裏にルネサス製のIC(恐らくマイコン)が実装されていました。

基板を裏返してみるとこの用にコンセント側からの配線が入っていく部分や、少し大きめの受動部品(コンデンサ・インダクタ等)が実装されているような形となっています。背の高い部品やスペースをとる配線などがこの裏面にまとめられているようです。

表側の制御周りをもう少し細かく見ていきます。

中央にやや大きめの4本足の部品が見えていますが、これが振動センサーのようです。PX-280にはスリープ機能が実装されていますが、人が握っている状態なのかこて台に置かれている状態なのかをこのセンサーで検出しているようです。

隣に並んでいる部品は制御回路用の定電圧回路部分になります。見えている範囲でも

  • MOSFET (Power Integration)
  • フォトカプラ(東芝TLP291)
  • オペアンプ(新日本無線・日清紡マイクロデバイス)

が確認できます。温調機能付きのはんだこてではヒーター先端部に熱電対が埋まっていてコテ先の温度の取得に使われているのですが、その温度による変化を増幅させるためオペアンプなどの部品が構成されているものと思われます。

最後にこちらのヒーターへの出力を制御している大きめの半導体部品について。データシートを検索しても詳細が出てこなかったものの、ほぼ100%の確率でトライアックではないかと思います。

余談

なお、少し話がそれてしまいますが、トライアックによるパワーコントロールについては以前解説した動画がありますので、是非こちらもご参考にしていただければと思います。

今回のまとめ

ここまでgoot(太洋電機産業)から販売されている一体型デジタル式温調はんだこてのPX-280をレビューしてきました。

使ってみた感想ですが、製品としてはなかなか良く出来ているのではないかと思います。これまでデジタル式温調ではコテ先とは別々になっていたステーションの部分を全て本体の中に納めて、更にデジタルでの温度調整やスリープ機能なども利用できるというこれまでにない製品となっています。

価格についても6,000円弱と、ステーションタイプのはんだこてを購入することに比べたらかなり安くなっていますし、特にこだわりがない場合はもう全てこれでよいのではないかと感じさせる製品になっています。

久しぶりに買ってよかったと感じる製品でした。なお、繰り返しになってしまいますが実際にイチケンがはんだ付けをしているシーンは動画でも見られますので、是非合わせてご覧いただけますと幸いです。

それでは今回も最後までお付き合いいただき誠にありがとうございました。

編集後記

ちなみに今回のブログ記事、2022年の2月に作成した動画をもとに2024年6月にブログ記事化しているのですが、2024年初頭にHAKKO(白光株式会社)から FX-600D というペン型のデジタル式温調はんだこてが登場しています。

PX-280とは競合となる製品ですが、本体のサイズ感など異なる部分もあるので、今からはんだこてをお探しの方は是非こちらも候補に入れてみるとよいかと思います。

また、FX-600Dの登場と時を同じくしてgootもPX-280の上位版(熱周りが強化された製品)にあたる PX-480 という製品を発売しています。コテ先の形状も違いますので特別に熱容量の必要なはんだ付けをする人向けの製品ではありますが、要チェックな製品かと思います。

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