Appleから発売された40Wダイナミック電源アダプタのコレどういう意味? 【前編】

2025年9月、Appleは新製品としてiPhone 17シリーズと同時にUSB充電器「40Wダイナミック電源アダプタ(最大60W対応) Model A3425」を発表しました。

Appleでは現在、iPhoneを始めとした一部の電子端末に充電器を付属させていません。このためiPhone購入時などにAppleの純正品ラインナップから充電器を選ぼうとすると今後はこの製品が第一候補となるわけですが、その(最大60W対応)という製品名から仕様についての謎を呼んでいます。

今回は詳細な性能テスト他社製品との比較を通じて、この仕様がやたら分かりにくい製品名に隠された「40Wダイナミック」や「最大60W対応」という言葉の真の意味を紐解いていきます。

また、本記事は分解を含む検証の前段階として、製品の仕様や動作についてレビューを行う【前編】の内容となっています。後編については近日中に公開予定のほか、YouTube上でも動画が公開されていますので、是非あわせてご覧いただけますと幸いです。

目次

製品概要

購入した製品について

今回購入したものがこちら、Apple Storeから購入しており2025年9月時点での価格は 税込みで6,480円 でした。ちなみにAmazonでも購入できるようなのでセールの際になどにはチェックしてみるのと良さそうです。

Apple(アップル)
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外観

まずは製品の外観から見ていきましょう。筐体は光沢のある白色で、角が取れて丸みを帯びたデザインをしています。

本体のUSBポートはType-Cが1つです。また電源プラグは折りたたみ式となっているため、カバンやガジェットポーチに入れて持ち歩く際などにも向いた設計です。

本体の出力スペックとしては5Vから20Vの電圧で出力が可能なUSB PDに対応しています。ちなみにこの製品はUSB PD3.2に対応したかなり新しい製品であり、詳細は省きますがSPR AVSの関係で出力プロファイルの記載もやや分かりづらくなっています。

この製品において一番特徴的なのは出力電流の仕様で、基本的には40Wを実現するようなプロファイルで動作するものの、特定の条件下では60Wまで拡張されると読み取れます。例として、15-20V動作時には⎓(直流)2.0Aとされている隣に[3.0A DPS]という表記が追加されています。

出力仕様を実際に確認

製品スペックとして記載されている情報だけではこの充電器が実際にどのような挙動を示すのかが謎だったので、実際に様々なデバイスを接続してテストを行いました。

今回はノートPCを始めとして、モバイルバッテリーやスマートフォンなどで検証しています。結果として接続するデバイスによって充電電力に差が生まれ、一種の「相性」が存在することが確認できました。

例として、 Anker製のモバイルバッテリー を接続した状況では最大60Wでの充電が可能でしたが、 UGREEN製のモバイルバッテリー では最大40Wまでしか出力されませんでした。他のUSB充電アダプタでは60W程度での充電ができることは確認済みです。

しかし、この他にもノートパソコンなど複数台を用いて実使用環境に近い状態の検証を行ったところ、大部分のデバイスでは60Wでの充電ができることが確認できました。おそらく特定のデバイスにおいて、通信の実装方法などによる相性問題が出たものと思われますので、多くのユーザーは最大60Wの恩恵を受けられると考えてよいでしょう。

Anker
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UGREEN
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加熱保護動作について

「40Wダイナミック電源アダプタ(最大60W対応)」の(最大60W対応)の部分については確認が取れましたので、次は動作時の発熱について検証を行います。

近年のUSB充電器市場では、出力電力の増加本体サイズの小型化という2つがトレンドです。しかしこの2つを両立させようとすると、電力変換時に発生する熱の放散が極めて困難になります。一部の小型化を実現している充電器では、最大出力で動作させ続けた際に表面温度が70℃近くに達することも珍しくありません。

このような発熱の問題に対応するため、多くの充電器には「サーマルスロットリング」を始めとした過熱保護機能が搭載されています。これは、本体内部で温度を監視し、高温になった場合には出力電力を低下させることで破損や安全上のリスクを防ぐといった仕組みです。

ただし、この過熱保護機能についてはその閾値や差動後の挙動など、メーカーの設計思想によって動作が異なる部分が大きく、製品の個性が出る部分でもあります。

他社製品と比較

今回は同程度の出力クラスを持つ他社製品と、発熱時の挙動について比較してみます。比較対象として

  • Apple 40Wダイナミック電源アダプタ(最大60W対応)​​​​​​
  • Anker Nano II 45W
  • Anker Nano II 65W
  • CIO NovaPort SOLOⅡ65W

の4つを揃えました。

一般的に、小型化を追求した製品は放熱が不利になります。そのため、過度な温度上昇を許容するか、サーマルスロットリングによって出力を制限するかの選択を迫られます。

例えば、Anker製の充電器はよほどの状況にならない限り過熱保護機能は動作しない、または出力を引き下げるような動作はしないようですが、CIO製の充電器は小型化の優先のため一時的に出力を低下させる仕様があることが 以前のイチケンの検証 からも明らかになっています。

サーマルスロットリング前提の動作であることの是非はさておき、初期に高出力が必要でその後は徐々に必要な電力が低下するモバイルデバイスの充電に最適化された設計とも言えます。

製品リンク

ちなみに今回比較している他の充電器はこちらです(イチケンの事務所に転がっていたやつ)。

Anker
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Anker
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性能や動作について検証

ここまで他社と比べた際の立ち位置や、一般的な充電状況での動作を検証してきましたが、実際に最大出力を連続で取り出した際にどういった挙動をするのか、また長時間60W出力を維持できるのかについて検証していきます。

実験セットアップ

今回の実験のために構築したセットアップがこちらです。

条件を統一するために安定化交流電源を用いて安定したコンセント電圧を用意し、検証用のコンセントプレートに接続した環境を用意しました。また充電器から負荷を取る二次側にはUSBのトリガーデバイスを接続し60W(主に20V3A)の出力を要求、その後は充電器の状態に応じて追従するものを利用しています。

また電子負荷のほか、温度、電圧、電流を測定するためのデジタルマルチメーターを3台ほど用意しています。測定データのロギングを行う都合上、据え置き型の DMM6500 を使用しています。

発熱の様子

まず連続負荷テスト中の発熱についてサーモグラフィーで確認してみます。

連続動作中の外装温度については後述の通りピークと冷却期間が存在するのですが、最も温度が高くなった時点での表面温度は63℃程度でした。最近の60Wクラスの充電器では70℃を超える製品も多い中、比較的控えめな発熱ではないかと思います。

連続負荷テスト結果

以下に示すグラフは連続動作試験中の本体の外装温度と電力の関係をプロットしたものです。横軸に時間、縦軸に表面温度(赤線)と出力電力(青線)を記載しています。

実験を開始すると、充電器はトリガーデバイスの要求に対し即座に60Wの電力を出力し、それに伴い本体温度も上昇していきます。しかし、実験開始から約18分後の表面温度が65℃に達したところで出力電力が38W(おそらく40W動作)へ大きく低下しました。

これは、サーマルスロットリングによる過熱保護が作動し、発熱よりも放熱が上回る状態まで出力を落としたことを示しています。ちなみにグラフの電力の線が一旦0Wまで落ち込んでいますがこれは検証機材によるもので、実際の使用場面とは異なる場合があります。

どの程度60W出力を維持できるのか

本体の温度上昇に伴い出力が38Wに制限されたあとは、本体外装の温度は緩やかに下降していきます。約10分ほど38Wでの動作を続けて本体が冷却されると出力は再び58Wまで回復しましたので、一応60W出力を放棄したわけではなさそうです。

しかし、高出力状態に復帰してからわずか2分30秒で本体温度は再びサーマルスロットリングがかかる温度まで発熱したようで、再び出力が38Wに低下するような挙動を見せています。

また、この「冷却→短時間の出力向上→加熱→出力低下」というサイクルについてはその後も繰り返される事が確認されています。実験の環境にもよるかとは思いますが、冷却時間は回を追うごとに長くなる傾向にありました。

この実験結果から、40Wは連続して出力可能な定格電力であり、60Wはあくまで短時間に限って利用できるブースト機能であるということが言えるかと思います。

充電器としてのおすすめ度について

今回の検証結果から、この「40Wダイナミック電源アダプタ(最大60W対応)」という名称から仕様がとても分かりづらい充電器については「放熱の都合により出力電力が変化する製品である」という事がわかりました。

この40Wダイナミック電源アダプタ(最大60W対応)について、どういったユーザーであれば購入をおすすめできるか、使用場面やニーズ別にまとめてみます。

  • 購入を推奨できるユーザー
    • スマートフォンの充電がメインの方
    • 40W以下の給電で十分なノートパソコンを使用している方
  • 条件付きで推奨できるユーザー
    • 60Wクラスの充電を短時間だけ行うことがある方
  • 購入を推奨しないユーザー
    • 常に40W以上の電力を必要とする方
    • 60Wでの連続給電が必要な方(この場合は100Wクラスの充電器を推奨します)

まず60Wのフルパワーで動作するのは(今回のセットアップであれば)最初の20分弱に限られ、それ以降は放熱がボトルネックとなり実質的に40Wの充電器として動作します。スマートフォンの充電程度の消費電力であれば影響を感じる事はあまりないかとは思いますが、やや使う人を選ぶ製品であると言わざるを得ません。

また本製品の価格は6,480円(税込)であり、3000円台で購入できる40~60Wクラスの他の充電器と比較すると高価な部類に位置します。特に40~60Wのクラスは技術開発や製品の入れ替わりが激しく、より安価で優れたスペックを持つ製品も数多く存在します。

ただし、連続での60W出力をそこまで必要とせず40Wの出力でも実用上十分な場面は多く、またApple製品であることを重視する場合なんかには購入するのも良いのではないかと思います。

分解レビューやります

次回の記事ではこの充電器を分解し、その内部構造や部品から「40Wダイナミック電源アダプタ(最大60W対応)」の秘密にさらに迫っていきます。

前編までの内容は以下の動画でも確認できますので、まだ見ていないよという方は是非合わせてご覧ください。

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