【パワー半導体戦国時代】イチケンが教えるパワー半導体業界|2024年秋

イチケンではパワー半導体の使い方や部品の特長について、製品の分解や電子工作を通じて解説してきました。

そんなパワー半導体について、どのようなメーカーによって作られているのか、設計・製造メーカー・関連専業メーカーまで業界を網羅的に見渡した時に一体どのような様相を呈しているのか、今回は19の企業を例に挙げながらイチケンが2024年現在のパワー半導体業界について詳しく解説していきたいと思います。

目次

今回リストアップした企業たち

パワー半導体関連メーカーをリストアップするために、世界シェアNo.1の大企業から日本の老舗企業までどういったプレーヤーがいるのかなど、主にインターネットを通して市場調査を行いました。

上の方にある7社がパワー半導体のキープレーヤーと呼ばれる売上・業界シェアともに非常に大きな企業です。

また、会社によって得手不得手はあるものの、シリコンのパワー半導体だけではなく炭化ケイ素(シリコンカーバイド, SiC)や窒化ガリウム(ガリウムナイトライド, GaN)などの化合物半導体も製造しています。

スライド中央部にある企業はキープレーヤーとまでは言えないものの、販売している製品の中でもパワー半導体の存在感のある企業、ないしはキープレーヤーほどではないが一部のパワー半導体製品を専業で行っているメーカーなどです。

下の方にロゴが並んでいる企業は他の大規模な販売網を持っている企業とは違い、化合物半導体を使ったパワー半導体を専業として開発・製造している企業という並び順になっています。

動画もあります

今回はこれらのすべての企業について、どういった事業を行っているのか各企業の特長や開発動向などを一社一社解説を行っていきます。が、今回の記事ではまずその前段としてパワー半導体そのもののや業界を見渡しての傾向についての解説を行い、次の記事で各企業について触れていきたいと思います。

また、今回の【パワー半導体戦国時代】については全編36分強の気合の入った動画も製作しました。お時間のある方は是非こちらもご覧いただけますと幸いです。

パワー半導体の基礎知識

さて、一口にパワー半導体業界と言ってもメーカーそれぞれに強みや特色・製品ラインナップの差がありますので、それぞれの会社が何をやっているのかを理解するためにもまずはパワー半導体にどんな種類のものがあるのか紹介していきます。

ちなみにパワー半導体の種類についてだけ詳しく解説した動画も過去に作成していますので、本記事以上に詳しく知りたいという方はこちらの動画もオススメです。

パワー半導体の種類について

まずパワー半導体としてよく使われるものがこちらの5種類

  • ダイオード
  • サイリスタ
  • GTO/GCT
  • MOSFET
  • IGBT

です。

数ある半導体デバイスの中でもパワー半導体と呼ばれるこれらのデバイスは「電力を制御する」という重要な役割を持っています。応用自体は出来なくもないものの基本的にはパワー制御用のデバイスで、これらの部品がないと電車は動きませんし、最近普及しつつある電気自動車やハイブリッド車でも必ず使用されています。

これらのパワー半導体について、ざっくりとではありますが解説しておきます。

まずダイオードは電流を1方向だけに流すことのできる半導体です。画面に書いてあるシンボルでいうと下から上方向、矢印の向いている方向にのみ電流を流すことができ、基本的にその逆方向には電流は流れません。

ダイオードによく似たパワー半導体デバイスにサイリスタというものがあります。こちらも一方方向にのみ電流を流す事ができるという特性を持っていますが、ダイオードとは違いその電流を流し始めるタイミングを制御することが出来ます。

シンボルにもなにやら棒のようなものが生えています。実際のデバイスにおいてもアノードとカソードの他にゲート端子というものが付いていて、このゲート端子にパルス電流を流すことでダイオードと同様な整流動作を開始することが出来ます。

さらにサイリスタとシンボルが似ているデバイスにGTO(ゲートターンオフサイリスタ)ないしはGCT(ゲート転流型サイリスタ)と呼ばれるものがあります。

先程のサイリスタでは電流を流し始めるタイミングをゲート端子で任意に決められるという機能がありましたが、GTO,GCTではそれに加えて電流を止めるという機能があります。ゲート端子から電流を引き抜くと主電流(アノード-カソード間に流れる電流)を止めることが出来ます。

GTOの場合で主回路に対して20%程度、GCTではメインの回路に流れているのと同じ量の電流をゲート端子から引き抜くことで電流を止めることができます。ちなみにこういったデバイスのことを自己消弧型と呼びます。

MOSFETIGBTは比較的トランジスタと近い概念のデバイスで、通常のトランジスタがゲート端子に流す電流でその動作を制御するのに対しこちらは電圧でスイッチングさせることが出来ます。IGBTはMOSFETとトランジスタを組み合わせたようなデバイスです。

ちなみにGTOやGCTではゲート端子から引く抜く電流が大きいため制御回路部分が大型化してしまうといったデメリットがあります。数百~数千アンペアをゲート端子から引き抜く必要のあるGTOやGCTと比べると、MOSFETやIGBTのゲート端子に瞬間的に流れる数アンペアの電流は微々たる量と言ってよいレベルです。

パワー半導体の原材料について

パワー半導体デバイスにはそれぞれ扱う電圧・電流階級さらには求められる応答速度によって向き不向きがあるものの、大まかには今まで紹介してきた5種類がよく使われます。これらのパワー半導体デバイスは基本的にシリコン(ケイ素, Si)を原料として作られています。

シリコンを主原料とした半導体デバイスは半世紀以上のあいだ開発と進化を続けてきました。記憶素子などのロジック半導体分野では製造法や構造の工夫により近年でも目まぐるしい発展とプロセスの微細化が進んでいるものの、やはりデバイス自体の動作効率などを追い求めるとシリコンの特性由来の性能限界が高いハードルとなっています。

このため各パワー半導体メーカーでは近年ワイドバンドギャップ半導体と呼ばれる、シリコンよりも更に高性能な原料を使用した半導体デバイスの開発に取り組んでいます。

特にパワー半導体で一般的に使われているワイドバンドギャップ半導体としては、炭化ケイ素(シリコンカーバイド, SiC)窒化ガリウム(ガリウムナイトライド, GaN)があり、さらには一部でウルトラワイドバンドギャップ半導体といったものも登場しつつあります。これは酸化ガリウムであったりダイヤモンドを原料とするものです。

パッケージの種類

さて、シリコン半導体デバイスであってもワイドバンドギャップ半導体デバイスであっても、最終製品として販売される際には規格によって定められたパッケージに収められることになります。では一体どのようなパッケージが存在するのか、代表的なものを上げると次のとおりです。

特殊用途や納入先に合わせた特注モデルを除いて大体はこれらの5種類のパッケージが使用されます。チップ単体では使用できませんので、これらの最終製品を実際の回路の中に組み込んでいくことになります。

まず一番頻繁に見かけるであろうディスクリートタイプのパッケージについて。こちらは基本的に1つのパッケージの中にパワー半導体のチップが1つ封入されています。ダイオードなんかだと3端子で2素子入りの物などもあるかもしれません。

扱える電力に制限はありますが、パワー半導体の中では比較的小ぶりで価格も安価なものが多いです。使用される場面としては大きくても数キロワット程度の規模の回路にとどまります。

パワーモジュールは内部的に複数のパワー半導体の素子が入っており、そのチップ同士が配線されているものになります。

メガソーラーや高圧のモーターをドライブするためなど、比較的大容量かつ産業用のパワーエレクトロニクスの装置によく使われる印象です。端子なども大容量に対応するため、ネジ端子になっていることが多いです。

IPM(インテリジェントパワーモジュール)はパワーモジュールに加えて、パワー半導体を駆動させるために必要なゲートドライブ回路であったり、あとはパワー半導体自体を保護するための保護回路が一緒にパッケージに収められているタイプのものです。

高い電力を扱うパワー半導体モジュールではゲートドライブ回路もそこそこしっかりとした物を用意する必要があったりします。こういったゲートドライブ回路を外部で自分で設計して用意するのはなかなかコストが掛かりますので、同じパッケージ内に収められているとかなり使用するうえでのハードルが下がると言えるでしょう。

ちなみにIPMについてはディスクリート部品のような見た目をしている物もあります。MOSFETと周辺回路がひとつのパッケージ内に一緒に収められているもので、1.5kWくらいまでの電力を扱う白物家電の内部ではこのようなパッケージがよく使用されています。

最後にこちらの潰した缶のようなものが圧接型プレスパックとも呼ばれるパッケージです。

厳重に封印されているため半導体チップの抗環境性が高いのと、内部で破損が起きた際に破裂を起こしづらいという特長があります。高電圧大電力のパワーエレクトロニクス装置ではいくつも重ねて使用することで、放熱管理なども同時に行える優れものとなっています。

パッケージ別の採用現場など

さて、パワー半導体の原料とパッケージングについて紹介してきましたが、ここにどういった現場でどういった製品が使われるのか、パワー半導体の適用範囲をグラフに起こすと以下のような形になります。

縦軸が応用装置の電力容量、横軸はデバイスごとによく使用されるスイッチング周波数をマッピングしています。

ギガワット級の高電圧直流送電やメガワット級の高圧モータードライブなどではサイリスタ系のデバイスがよく使用されます。モータードライブという観点では電車のインバータに使用されていることで知名度のあるIGBTなども登場します。

モータードライブなどスイッチング周波数がキロヘルツオーダーになってくるとIGBTのモジュールや、近年ではシリコンカーバイドMOSFETがよく使用されています。なお、白物家電など家庭でも扱える程度しか電力を消費しない場合には、前述の通りICタイプのIPMパッケージなども見られるようになってきます。

GaNなどのまだ用途の幅が拡大している物を除き、代表的な使用例でいうとこのような感じです。

関連動画

ちなみに、これまでにもパワー半導体の使い方などを解説した動画シリーズを公開しています。企業情報以外にパワー半導体そのものについてもっと気になるという方は、是非以下YouTubeをチェックしてみて下さい。

現在のパワー半導体業界について

さて、ここまで紹介してきたパワー半導体デバイスのバリエーションをふまえて、今回ピックアップした19の企業がどのような製品ラインナップを持っているのかを表にしてみました。

各行はそれぞれの化合物半導体と定格レンジ別、各列がメーカーになっています。一覧だと分かりづらいので日本勢と海外勢に分けて見てきましょう。

日系メーカー

日系メーカーそれぞれが商品ラインナップとして持っている物を表すとこのような形になります。

ぱっと見た感じ三菱・富士・東芝DS・ロームのキープレーヤー4社がかなり網羅的にラインナップを持っているような印象です。ただし一部を除いてGaNパワー半導体についてはほとんどラインナップしている様子はありません。比較的新しい化合物半導体であることと、各社SiCのラインナップ拡充を優先してきたということでしょうか。

それぞれの企業ごとの特徴については 次回のブログ記事 で詳しく触れる予定です。

海外メーカー

次に海外メーカーです。こちらはキープレーヤー含めパワー半導体を総合的に取り扱っているメーカーの表です。

パワー半導体世界シェア一位を誇るInfineonはさすがの取り揃えで、ほとんどの耐圧において製品をラインナップしています。ただしキープレーヤーと呼ばれる企業は自社でのパワー半導体開発に加え、振興のメーカーを吸収することでラインナップを拡大していることが多数ですので、これらのラインナップについても今後どんどん変動していくものと思われます。

シリコンカーバイド(SiC)MOSFETについては各社ラインナップがあるという状況でした。LittelfuseにおいてはIGBTの取り揃えがフルレンジである上にワイドバンドギャップ半導体もラインナップしているということで、少々意外な結果でした。

専業メーカー

海外系企業については専業メーカーについてまとめるとこうなります。(一部買収/統合済み含む)

SiCとGaNについては比較的新しい業界ということもあり各方面で吸収合併競争が起きています。今回取り上げた企業でいうと

  • Cree は Wolfspeed に社名変更
  • GaN Systems は Infineon に買収された
  • Transphorn は ルネサス に買収された

といった形です。前項・前前項のグラフとあわせてみると一部のキープレーヤーのラインナップがすごいことになりそうな感じがあります。

今後の開発競争のなかでどのような構図となっていくのかはまだ分からない感のあるこのカテゴリですが、それぞれの企業についての掘り下げも 次のブログ記事 で行う予定ですので、楽しみにしていて下さい。

ちなみに今回のパワー半導体企業のリストの中にテキサス・インスツルメンツが入っています。TIといえばアナログ半導体部品を探したことがある人であれば聞いたことの無い人は居ないほどのアナログ半導体の王者ですが、実は窒化ガリウム半導体を応用したパワー半導体製品も一部取り揃えていたりします。

補足

次回以降の各企業の掘り下げにおいて、諸事情からVishayとMicrochipは省いています。また、今回リストアップした他にもパワー半導体で存在感のある企業が見つかるかと思いますが、一定の会社規模やパワー半導体事業の売上規模でリストからは除外しています。予めご了承下さい。

各企業の解説は次の記事をどうぞ

ということでここまでパワー半導体がどんなものなのか、さらには各企業が持つラインナップについて紹介してきました。

次回のブログ記事ではこれら調査対象の19の企業について全ての企業を個別に解説していきます。なお、それぞれの企業の情報については主にインターネット上で公開されている決算報告資料(IR資料)や、ニュースリリースならびに製品情報を参考にしています。

是非気になる企業はないか一度ご覧いただけますと幸いです。

それでは今回も最後までお付き合いいただき誠にありがとうございました。YouTubeで公開している動画 についても是非よろしくお願いします。

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