LEDで作る太陽電池で発電はできるのか?【光起電力効果について実験】

電気電子の分野において光るものの代表格といえばLED(発光ダイオード)です。表示器や照明まで今では身の回りに溢れているLEDですが、実は電流を流して光らせるほかに、光を当てて発電/電流を流すことができてしまいます。

今回はそんなLEDの発電能力について、いったいどれほどのものなのかを実験・検証していきます。

なお、例のごとくイチケンのYouTubeチャンネルでは動画にて詳しく解説していますので、まだ見ていないよという方がいましたら是非そちらもあわせてご覧いただけますと幸いです。

目次

太陽光発電(光起電力効果)についておさらい

LEDの発電能力を実験する前に、太陽電池の原理についておさらいしておきます。世の中で広く使われているシリコン半導体型の太陽電池の構造ですが、実はLEDとあまり違いがありません

太陽電池は半導体に対する光起電力効果というものを利用して光エネルギーを電気エネルギーに変換します。いまホワイトボード上に書かれているのはP型半導体とN型半導体が向かいあっている状態です。それぞれの特性をおさらいすると

  • N型半導体:負の電荷である「自由電子」を多く持っている半導体
  • P型半導体:正の電荷である「正孔」を多く持っている半導体(電子の欠落している部分がある半導体)

といった形です。次に、ここから2つの半導体をくっつけた状態を作ってみます。

この状態のことをPN接合といいます。このときN型半導体の中にある電子はP型半導体の方へと移動し、P型半導体の正孔はN型半導体の方へと移動します。

これを「拡散」といいます。じんわりと滲んでいくようなイメージを持ってもらえるとよいかと思います。

PN接合されている状態の半導体の接合面付近に注目してみると、拡散した電子と正孔が結合しているような状態になります。この結合した領域では電子と正孔が少なくなっており、この領域のことを「空乏層」と呼びます。

細かいことは割愛しますが、この空乏層付近では電荷の偏りが発生するため

  • 空乏層寄りのN型半導体は電子が少なくなった結果、プラスっぽく帯電
  • 空乏層寄りのP型半導体は正孔が少なくなったため、マイナスっぽく帯電

しているような状態になり、この電界のことを「内蔵電界(電場)」と呼んだりします。

光を当てるとどうなるか

さて、ここからが本題です。このPN接合された半導体の空乏層に光を当ててみましょう。

そうすると光が半導体に吸収された結果、新たに正孔と自由電子が励起されます。原理を説明すると長くなるので、とにかく

  • 光電子が発生
  • 電子が内蔵電界(電場)に押し出されて
  • PN半導体の間に電流が流れる
  • 結果、起電力が発生した状態になる

と覚えてください。

次にこの光起電力効果の生まれているところに外部負荷を接続してみます。すると接合部で移動が起きていた電流が負荷(外部回路)に流れますので、光で発電ができているという状態になります。これが太陽電池の仕組みです。

さて、ここまで「P型半導体とN型半導体が接合された状態に光を当てる」というテーマで解説をしてきましたが、このPN接合された半導体というのは、もうそのまんまダイオードの構造のことを指しています。かなり暴論ではありますが

「PN接合された半導体」≒「太陽電池」≒「ダイオード」≒「LED(発光ダイオード)」

ということです。ですので、今回のLEDで発電をしてみようというテーマにつながることになります。

ちなみに…

ちなみにこれは余談になりますが、構造が同じということで太陽電池(太陽光ソーラーパネル)にも電流を流すと発光させる事ができます。

光るとはいっても可視光で明るく光るわけではなく、特定のスペクトルで一応発光する程度のもののようですが、半導体の状態がどうなっているかの検査などに用いられているようです。

実際にLEDで発電できているか確認

というわけでここからはLEDでどの程度発電ができるのかを実験していきます。光を受けるのがテーマということで今回は屋外で実験をしていきます。

7月某日の南中時刻頃に建物の屋上にやってきました。まずは砲弾タイプのLEDを太陽光に当ててどの程度発電能力があるのか調べていきます。なお、収録の都合で夏真っ盛りの時期に実験を行いましたがあまりおすすめはしません。クソ暑いので。

開放電圧測定

まず最初に使用するLEDの発光色によって発電性能にどのような差があるのかを調査しました。使用したのは紫外線(UV)から赤外線(IR)までの5mm砲弾タイプのLEDです。

それぞれの出力電圧はこの様になりました。なお、ブレッドボード上に実装したLEDを日置電機のDT4282に直結した状態で、目測で可能な限り太陽に垂直に当てた状態の開放電圧を測定しています。

測定を行ったうち一番開放電圧が高くなったのは青色LEDでした。次点で白色・緑色と続きます。青色LEDは光らせるための順方向電圧(Vf)が高い傾向にありますが、これが影響しているのかは不明です。

今回使用したLEDについてはDigiKeyで購入していますので、以下に型番を記載しておきます。

UV(紫外線)VAOL-5GUV8T4
Blue(青)C503B-BCN-CV0Z0462
Green(緑)C503B-GCN-CY0C0792
Yellow(黄)OVLFY3C7
Red(赤)C503B-RCN-CW0Z0AA1
IR(赤外線)BIR-BM53E4G-2
White(白)334-15/T1C3-2TVA

複数使用してどの程度発電できるか実験

次に青色LEDを直列や並列接続にして使用する個数を増やし、どのくらいの発電能力が確保できるのか実験してきます。今回は4直列をさらに4並列の、合計16個のLEDを使用したモジュールをブレッドボード上に構成してみました。

こちらのモジュールに日光を当てた状態の開放電圧は約8.7Vとなりました。一部のLEDだけでも日陰になってしまうと著しく電圧が低下していまいますので、いかに光をよく当ててやるのかというのが重要です。

さて、LEDをいくつか使用することでそこそこの電圧までの発電ができることがわかりましたので、次はこの電力が利用できるか実験してみたいと思います。

今回は単純に出力となる部分に別のLEDを一つだけ繋いで、そのLEDを光らせることができるのかを試してみます。LEDで発電してLEDを光らせるといった実験です。

光を受けて発電している状態の16個のLEDに光らせたいLEDを接続してみたところ、8.6Vあった開放電圧が一気に1.9Vまで低下してしまいました。

接続されたLEDをよく見てみるとほんの僅かに光っていることは確認できましたが、しかし発電能力の評価という意味ではほとんど発電できていなさそうです。

ちょっと本気を出してみる

16個では発電量が少ないということであれば、LEDを1000個ほど使用したらどうなんだ、ということでチップLEDを大量に実装したLED発電モジュールも作ってみました。

こちらの発電能力超強化版の自作LEDアレイ(0603LEDを40直列25並列にしたもの)を使用することでLED1つを光らせることができるのか検証していきます。なお、製造の都合で赤色LEDを使用しています。

まずこちらのLEDアレイですが、40直列にしていることもあってか太陽光の条件下で開放電圧が36~40V程度出ています。しかし、少しでも日陰に入るとやはり発電電圧が一気に下がってしまうようで、10V程度とかなり残念な予感がします。

また、光の当て方でも出力電圧がかなり過敏に変化するようで、太陽に対して垂直の条件下で出ていた電圧も、少し傾けるだけで数十ボルト単位で下がってしまいます。

負荷につなげるとどうか

さて、本命のLEDを光らせる実験で発電能力がどの程度あるか様子を見てみます。

結論から言ってしまうと、正直ダメそうです。

先程の16個の砲弾LEDで発電していたときと比べてこころなしか光り方はしっかりしているような気がしないでもないですが、負荷のLEDを一つ接続しただけで開放電圧は2Vまで下がっています

ということでここまで屋外で実験をしてみて、LEDを使用して発電をするのは非常に難しそうだ、ということがわかってきました。ここからは室内に戻って実際の発電能力について、計測器類を使用して検証を行っていきます。

屋内で詳しく測定してみる

というわけで室内に戻ってきました。ここからは安定した光源としてビデオ撮影用の照明(200Wのもの)を使用して、いったいLEDでどの程度発電ができているのかを数値的に取得していきます。

ちなみに製品として販売されている太陽光発電パネルの効率測定を行う場合は測定基準がきちんと設けられており、また、今回はLED照明を使用しているため太陽光とそのスペクトル構成がかなり異なっている点には注意しなければいけません。

まずは屋外での測定でも行った砲弾タイプのLEDの発電状態の測定結果です。やはりそれぞれのLEDの発電特性は太陽光下での測定結果とほぼ変わらないという結果となりました。

ただし一点だけ違う部分があり、LED照明下では紫外線LEDの開放電圧がほぼ0Vとなっています。ビデオライトでは人間の目で見たときに同じように光があたっていればよいので紫外線成分は含まれていません。このため開放電圧がほぼゼロになったものと思われます。

今回はよく調査をしていないのであくまで仮説レベルの話になりますが、ある色のLEDで発電を行おうとした場合、LEDに当てる光も同じ成分を持った光である必要がありそうな感じがします。LEDの構造の領域の話となるので、今回は割愛します。

自作LED太陽電池の能力測定

さて、本題の自作LED太陽電池パネルの発電能力について調査していきます。

40cmほど離した位置からフルパワーで光を当てると開放電圧は53Vを超えてきました。直列にしている段数が多いというのもありますが、思ったより高い電圧が出ています。

ちなみにLEDチップを覆うように光を遮ってしまうと一気に開放電圧は下がってしまいます。強い光を当て続けることで初めて光起電力効果が生まれているというのがよくわかります。

負荷に繋げるとどうなるか

さて、こちらの自作LED太陽電池パネルから負荷を取ろうと電子負荷を接続してみたのですが、電子負荷のスイッチをオンにいする前にただ繋いだだけで電圧が一気に降下してしまいました。

負荷を繋げていないときは一番下にある電流計の数値もほぼゼロですので電流は流れていません。しかし電子負荷を接続すると7uA程度流れていることがわかります。

これはあまりにも自作LED太陽電池パネルの発電能力が低すぎて、電子負荷の内部抵抗に流れる電流(+その他の消費)に耐えられていないということでしょうか。

念の為電子負荷ではなくではなく100kΩ程度の抵抗を繋いでみましたが、やはり同じように電圧は一気に下がってしまいますので、発電装置としてはほとんど使い物にならないようです。LED1000個でも発電用途には使えなさそうです。

原因について考察

さて、ここまで色々と実験をしてきて「たしかにLEDで光発電はできるがその発電量はかなり少ない」ということがわかってきました。ここからはなぜ発電量がこれほどまでに小さいのか、イチケンなりに考察してみたいと思います。

理由1つ目

まず考えられる理由として、受光面積が小さすぎることが挙げられます。

通常の太陽電池パネルでは黒い面全体が半導体部分となっており、全体で効率よく光を受け止められる様になっていますがLEDは違います。

LEDのパッケージのうち、実際に発光する部分≒光を受けて発電する箇所は割合でいうとかなり小さく、だいたい5mm砲弾LEDの投影面積が20mm2であるとすると、半導体部分は1mm2もありません。

たとえブレッドボードやチップLEDで基板上にぎっしりと配置したとしても、これではあまりにも効率が悪すぎます。

理由2つ目

その他の理由として、まずLEDは発電するように作られてはいません。

一般的に販売されている太陽光発電パネルの電力変換効率は10%台後半から20%台前半のものが大多数です。太陽から降り注ぐエネルギーはおよそ1000W/1m2と言われていますので、1m2の太陽電池パネルを用意するだけで200Wの発電が可能です。

しかしLEDは電流を流したときに能力を発揮するように作られています。電力変換効率なんて想定すらされていません。先ほど述べたようにパッケージサイズに対するチップ面積率も低いので、μAレベルの発電しか行えなかったとしても不思議はありません。

LED発電の使い道について

ただしLEDを本来の光らせる以外に使うことができないのかというと、意外と使い道自体はあるのではないかと思います。

光を受けて電圧を出力すること自体は行えていましたので、簡易的な光センサー・照度センサーとして明るさを検知するという目的であれば意外と使えてしまうような気はしています。

ただし本物の光センサーと比べてしますと入出力の特性がわかっていませんので、非常にざっくりとした検知に使うか、特性の取得から始める必要はあります。あくまで光センサーがどうしても入手できないときに一時的に使う代替部品のような使い方になるかと思います。

補遺

ちなみにあくまで噂レベルの話なのですが、どうやら製品設計の裏技として「表示用のLEDであっても当たる光の量≒開放電圧をセンシングして簡易的なセンサーとして使う」といった技法があるようです。ちょっとおもしろそうな試みです。

今回のまとめ

というわけで今回はLEDで太陽電池が自作できるのかどうか、LEDの発電特性についての解説も交えながら色々と実験をしてきました。

結論としては

作れないことはないが、効率がとても低いので作らないほうがいい

といったところでしょうか。

光を当てることで起電力効果が起きていることは確認できますし、数uA程度であれば出力も確認できます。何かしらのセンサー用途として使用することはできるかもしれませんが、しかし光に対するセンシングであれば素直に光センサーを購入すればよいだけの話ですので、あまりおすすめはしません。

なお、動画本編ではイチケンが炎天下の中実験している様子なども見られます、まだ見てないよという人は是非動画の方もよろしくお願いいたします。

それでは今回も最後までお付き合いいただき誠にありがとうございました。

おまけ

動画内で使用していたチップLEDを1000個実装した基板について。今回の基板はJLCPCBにPCBA(部品実装サービス)まで含めて一括で発注しました。

基本的に何も難しいことはしていなくて、単純に並べたLEDをコピペしているだけです。だけなんですが、実は発注の際にどうしてもJLCがデータを受け付けてくれなくて結構トラブルシューティングに時間がかかりました。

さらっと原因だけ記載しておくと、PCBAの発注時にはフットプリントと部品を紐づけて指定するBOMファイルというのが必要です。ただ、同じ部品(今回だとLED)を配置する先のフットプリントの要素数が肌感で200個を超えると入稿時のデータチェックでエラーとなるようで、同じ部品であっても複数の行に分割する必要がありました。

というわけで、もし同じ部品を数百個単位でPCBAで実装する場合にはみなさん注意してみてください。バグフィックスされていると良いのですが…

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