80mmの放電が可能なウィムズハースト誘導起電機(改良型)を作りました

今(2024年夏)から遡ること約2年前、イチケンでは学生向けに夏休みの自由研究の題材として「ウィムズハースト式誘導起電機」を紹介しました。

非常に簡素な手作り感満載の工作でしたが、一応3~4mm程度の放電に成功しています。

ただ、この動画の中で「もっと大型のものを作る」と言って以降なかなか着手せずにいました。今回はそんなウィムズハースト式誘導起電機について、前回よりも大幅な大型化と高効率化を目指して製作を行っていきます。

ちなみに動画本編が公開済みですので、まだ見ていないよという方はぜひこちらも御覧ください。

目次

おさらい

まずはウィムズハースト式誘導起電機の構造と、放電とは一体何なのかについて簡単に復習します。

ウィムズハースト式誘導起電機、ややこしいので以降はウィムズハーストマシンとしましょう。これは静電誘導という現象を利用して「回転している円盤の上に出来た電荷の偏りをライデン瓶に集めて電位差を生じさせ、絶縁破壊→放電させる装置」です。

前回の工作では数ミリメートルの放電が限界でしたが、今回は20cmを目標に工作を進めています。大気中における絶縁破壊は 1mmあたり1000~3000ボルトと言われていますので、最大で20~60万ボルトを発生するマシンが目標です。

そもそも放電とは

さて、放電とは言うものの、今回の実験で言う放電とは「電池などの充電されているものを負荷で消費する」といったような意味の放電ではなく、「電位差が高まり絶縁が破壊され、一気に電流が流れる現象」のことを言います。

この放電現象についてはその様子から、以下の4種類に分けられます。

コロナ放電

たとえば高電位にある状態の導線の先端であったり、比較的尖った状態の箇所から持続的に放電する(火花が空中に伸びるような)現象のこと

火花放電

静電気や雷のような放電。ある地点とある地点の電位差が一定以上になった際に、急速に火花で結ばれるような形で放電する現象のこと

グロー放電

蛍光灯内の低圧中などで持続的に放電する現象のこと

アーク放電

アーク溶接などで利用される非常に高い温度を伴う放電現象のこと、グロー放電状態から流す電流を増加させることで発生する

今回のウィムズハーストマシンで作る放電は②の火花放電にあたります。電極間の電位差をどんどん増加させていって、絶縁破壊距離を上回った際に一瞬で放電をするようなものを作ります。

デモ実験と前回の反省点について

まずは放電現象のおさらいです。2層のアルミホイルをプラカップで1mm弱くらいの距離で絶縁した簡易ライデン瓶を作ってみました。この近くで下敷きや塩ビパイプを擦って帯電させ、電子を送り込んだりなんやかんやして電位差を生じさせます。

2枚のアルミホイル同士が短絡するように近づけてみると一瞬火花が出て放電していることがわかります。これが火花放電です。

ただし、電荷がたまりすぎると今度は尖っている箇所から目に見えないレベルでのコロナ放電が起きてしまい、次第に電荷が抜けていってしまいます。ですので、コロナ放電が極力起きないような構造を維持し、ライデン瓶に貯めておける電圧を可能な限り高くすることで、長距離の火花放電を実現することができるようになるわけです。

改善点

さて、ここまでを踏まえて前回製作した装置の改善点を考えてみます。工作自体が割り箸やグルーガンを多用した簡易な工作であったのは一旦置いておくとして、次の3つのような改善点が考えられます。

電圧不足

これは単純に前回作成した装置の発電能力があまり高くなく、ライデン瓶に蓄えられる電圧が到底長距離の放電を見込めるものではなかったということです。

電気抵抗となる箇所が多い工作だった

以前の製作では細い配線を使用していたり、また、配線同士の接続などもあまり気を使って工作していませんでした。結果、せっかく生まれた電荷の偏りをうまく利用することが出来なかったということです。

尖っている部分が多かった

前回の製作ではアルミホイルをなにかに巻きつけるなど、基本的に尖った部分を完全に潰しきれていない点が多々ありました。先ほども説明しましたが、角が立っている場所が多いとそれだけコロナ放電が発生しやすくなります。

今回の見どころ

これらの反省点を踏まえた今回の工作の工夫については後々取り上げるとして、まずはウィムズハーストマシン全体の発電能力を強化するアプローチから始めていきたいと思います。

発電量を増やすためにはディスクの回転速度か、ディスクの面積を大きくする必要があります。ので、まずは大型ディスクをプリント基板で作成してみました。直径40cmです。

大型のプリント基板で作成することで指定の形状・寸法の銅箔を正確に配置することができ、大型化や切り出しの精度についても技量いらずで対応できます。また、基材は一般的なプリント基板と同じFR-4(ガラスエポキシ材)で出来ていますのでそこそこの絶縁性能も期待できます。

これをできるかぎり高速で(手動で)ブン回していきます。

ちなみにそれぞれの銅箔部分を拡大してみるとこのような形になっています。今回ははんだメッキ仕上げで発注、それぞれの銅箔の大きさは95mm × 10-15mmです。

回転部分の組み立て

では実際に制作に入っていきます。まずはディスクを装置に組み込めるように加工します。

円盤の中央部分には丸い穴を設けています。ウィムズハーストマシンで回転させる際には何かしらの方法で駆動力を伝える必要がありますので、今回はベルト駆動を想定したドリブンプーリー兼ハブを接着剤で固定していきます。

ウィムズハーストマシンには2枚の円盤が必要ですので、同じものをもう1つ作成します。

ちなみに、このドリブンプーリー兼ハブを含め各所の構造体部品については3Dプリンターを多用しています。完成に至るまでの試作が非常に迅速に進められますし、なにより部品あたりの製造コストを下げることが出来ます。

ちなみにシャフトとの間にはボールベアリングが入るような構造になっています。半分埋め込むような形で3Dプリント部品に嵌まるようになっていて、かつ抜け留め用にイモネジで固定できるカラーで挟み込むようにしています。

前回のストローと割り箸の工作と比較するとものすごく良く回る様になりました。プリント基板で製造したディスクも当初は歪みが発生するのではと警戒していたのですが、組み立てた感じ特に問題になるようなブレもなく、非常にスムーズに回転しています。

このあたりの様子につきましては是非動画の方もご覧いただけますと幸いです。

さて、ディスクをシャフトに通して回すことまでは出来ましたが、これらを据えるための土台が必要です。

今回は入手性と加工性の良さ、そしてなによりも価格が安い塩ビパイプで構造体を作ることにしました。単純なラーメン構造に組んだ塩ビ管を、木材でできたローテーブルに固定しています。

また、こちらの土台にはディスクを駆動するためのドライブ側プーリーや、手回し用のハンドルの付いたクランクシャフトも一緒に固定します。開発段階から動画の撮影の間かなり本気で回し続けていますが一度の破損も経験しておらず、コスト重視での開発の割にかなり良いものが出来ました。

なお、駆動力の伝達にはウレタンベルトを使用しています。任意の長さで切断した後にライターなどを用いて熱溶着することで簡単に任意の長さの輪を作ることが出来ますので、あらかじめ寸法や距離を正確に決める必要がなく、プーリー型の工作をする際にはかなり向いています。

ハンドル側とディスク側それぞれにウレタンベルトを引っ掛けたらこれでメインの駆動部分の組み立ては完了です。

今回はそれぞれのプーリーの寸法に差をもたせることで1:1以上の変速を行っていますので、手でハンドルを軽く回すだけでかなり勢いよく円盤を回転させることが出来ます。サイズ感も相まって机の上で動かしているとかなりの迫力です。

その他の必要な部品を組み込む

詳しい動作原理の解説は 以前の動画 に譲るとしてここではあまり解説しませんが、ウィムズハーストマシンでは円盤上(の電極)に発生した電荷の偏りを特定のエリアで中和させる必要があります。このため「ニュートラライザー」と呼ばれる導線を配置する必要があります。

今回は円盤を取り囲むように塩ビ管で枠組みを作っていますので、ニュートラライザーの配線を支持するパーツを3Dプリンターで作成し、その先端に固定する方式を採用しました。

また同様の手法で集電部についても作成しています。こちらはライデン瓶に接続されており電位がどんどんと高くなっていく箇所です。実際に火花を飛ばす際の電極はここと同電位になります。

完成と動作確認

というわけでウィムズハーストマシンの組み立てが完了しました。回転させるときちんと起電しているようで、周囲のモニターの挙動がおかしくなったり、どこかでコロナ放電が起きているのか、オゾンの匂いがしてきます。

放電用の電極の距離を近づけていくと無事に火花放電している様子も確認できました。

放電する二極間の距離が同じとき、大気の絶縁破壊電圧を超えた瞬間に火花が飛んで放電、一定時間また円盤を回転させて電荷をライデン瓶に貯めることでまた放電、といったようなサイクルを繰り返します。

このあたりの動作の様子については是非、動画でご確認下さい。

期待していたほど放電の距離が伸びない。なぜ?

さて、ひとまず大型プリント基板で作ったウィムズハーストマシンで放電をすることには成功しましたが、思ったより放電の距離を伸ばすことが出来ません。せいぜい2~3cmといった放電が限界で、実現したい20cmには遥か及ばない結果です。

ここで放電距離が伸びない原因について考察してみます。まず、実験中に確認できた現象として

  • ヂリヂリという音が継続的に聞こえる
  • なんか臭い・オゾンのような匂いがする

といったものがあります。

オゾン(O3)というものは空気中の酸素(O2)が放電現象に晒された結果なんやかんやされてできる物質です。非常に強い殺菌・脱臭効果がありながらも構造として不安定なため放っておけばすぐに酸素(O2)に戻るという安全性から、お掃除の現場などではよく使われています。

ぶっちゃけ人体にも有害な物質ではあるのですが今回はそういった点については目をつむるとして、この臭気が漂っている事実はそのまま「意図せぬコロナ放電がどこかで発生している」ということを指し示します。

コロナ放電も放電現象の一種であり、条件がそろえば火花を観測することが出来ます。今回はディスクを回転させながら部屋の電気を消してみた所、円盤上の電極や、特にニュートラライザーの部分で定常的に放電していることがわかりました。

つまりこのコロナ放電の発生をなんとかして抑えない限り、ライデン瓶に充電されるはずの電荷がどんどんと大気中に逃げていってしまい、放電距離を伸ばすことが出来ないわけです。ただし何か効果的な策を打って貯められる電圧の上限が上げられたとしても、それまでにはなかった箇所からの放電も増える事を意味しますので、完全に潰すということは非常に難しいです。

対策してみた

なにはともあれすぐに対策できそうな手法をいくつか導入してみることにしました。

まずはニュートラライザーの先端部分の形状を変更することにしました。これまではより線を剥いて直接電極部分にこすり当てていましたが、結局先端がいくつも分岐してしまうとそれだけ尖っている部分が増えるわけですので、コロナ放電を助長するような構造になっていました。

このためできる限りソリッドな構造体へ変更しようということで銅の単線をT字形状にしたものを用意、また、直接こすり当てるわけではなく非接触で電荷だけ移動するような配置方法に変更しました。どうしても角が立ってしまう端っこの部分にははんだを盛って丸くなるよう工夫しています。

この「接触させない状態のほうが放電距離が伸びる」という事も、色々と実験しているうちに分かってきたことの一つです。あくまで肌感ではあるので間違っているかもしれませんが…

集電部分の構造も単線を用いた工作に改良しました。アルミホイルで理想の形状を探ってみたりもしたのですが、結局のところこちらの集電部分についてはある程度尖っている方が集電効率が良さそうでしたので、設計の方向性は変更していません。

なお、お気づきの方もいるかも知れませんが、先程から材料として使用している銅の単線は、どこのご家庭にもあるVVFケーブルそのものです。ある程度の太さの銅の丸棒を用意するのが理想的ではあるものの、いかんせん入手性と取り回しのよさから事務所に転がっていた端材を加工して使用しています。

ただし、尖った場所を限りなく少なくするという課題に対して一箇所対策が取れなかった場所もあり、それがこのライデン瓶に配線を接続している部分になります。

欲を言えばライデン瓶の上部構造体に直接接続できる構成が望ましいのですが、今回は機構的に大幅な変更を加えている余裕がなかったため大きな改造はしないまま続行します。どちらかというと円盤上での放電対策を優先した形です。

今回の最高到達地点

というわけで第2次試作ウィムズハーストマシンが完成しました。

ここで一つ悲報なのですが、各所の構造を変更したせいか円盤を回すだけでは電荷が溜まらなくなってしまいました。最初に手動で電荷の偏りを与えてやる必要があります。

子供が下敷きを擦って静電気で遊ぶときと同様、アクリル板を布で擦って静電気(電荷の偏り)を起こします。ウィムズハーストマシンのディスクを回転させながらこのアクリル板を近づけると、円盤上の電極それぞれに電荷の偏りが生じて充電が開始されます。

このとき、ディスクのどこかからジーという音が聞こえてくるので起動したことが分かるのは良いものの、これは同時にコロナ放電がまだどこかで発生しており一定以上の充電ができなくなっているという状態を指します。とはいえ一定以上改善は出来ているような感じはあります。

というわけで2次試作でどの程度放電距離が伸びたかの結果について。なんと10cm弱(8cmあたりまで確認)飛ぶようになりました。かなりの高電圧が発生しています。

動画本編ではスローモーション映像もありますので、是非ご確認下さい。

さて、放電距離を伸ばすことには成功したものの、先ほど起動に苦戦していたように、一度派手に放電させてしまうと再度電荷がたまらなくなってしまう状況になってしまいました。このため、定期的にアクリル板をゴシゴシして近づける必要があります。要改善点です。

ちなみに先程の改造で変更をしていなかったライデン瓶について。ここまではプラスチック製のビンにアルミテープを使用したものを使っていましたが、これをガラス瓶に変えるとどうなるのかも検証しました。

結果として大きな変化はなく放電距離も変わりません。放電の強度も変わりませんし、なんなら起動性が少し悪くなったような感じです。

というわけでウィムズハーストマシンにおける有効な改造項目としては

  • ディスクの設計
  • ニュートラライザーの形状と触れ方
  • 集電部分の形状

あたりが、コロナ放電を抑えつつ放電距離を伸ばすことに比較的エフェクティブであることが今回の製作でわかりました。

おまけ

さて、ウィムズハーストマシンで起こせる放電が火花放電(と意図しないコロナ放電)であるというのは最初に解説したとおりですが、火花放電では同時に電子が空気中に強く放出されます。そこでこんな実験もしてみました。

蛍光灯は電気抵抗を利用して発熱/発光する白熱電球とはその光る仕組みが違い、蛍光管内に熱電子を放出し、その電子が蛍光体にぶつかることで発光するデバイスです。このため電子を叩きつけけることがよければその手段は(わりと)何でもよく、実際ウィムズハーストマシンの電極間に蛍光灯を配置してやると、放電に合わせて全体が発光します

感電には注意する必要があるものの、蛍光灯を持っている腕の毛が静電気で逆立つような感覚があって面白いです。

今回のふりかえりと今後の改善点


というわけで今回は超大型ウィムズハースト式誘導起電機(ウィムズハーストマシン)を作成、改良まで実験してきました。

当初の目的では20cmの放電を目指していたのですが、ライデン瓶の性能であったり意図しないコロナ放電が抑えられないなどの理由で、半分弱の8cm程度の放電にとどまる結果でした。

大気の破壊電圧は1mmあたり1000~3000Vと言われていますので、贔屓目に見積もって20万ボルト以上は出ていたのではないかと考えています。

なお、今回放電距離が伸びなかった理由について構造の他にも環境的な理由が考えられます。イチケンでは今回夏の始め頃から試作を行ってきました。知っての通り静電気というものは湿度が低ければ低いほどよく発生しますので、時期的にいささか厳し目の結果が出ているものと考えられます。

またこちらは放電距離というより工作全体の改善点として、やはりウレタンベルトと溝なしプーリーでの駆動はトルク負荷に対して弱く、多少ディスクの回転に抵抗が生まれると空回りを起こしてしまいます。

稼働中のウィムズハーストマシンにおいては電荷の偏りが生じて静電誘導が強くなると2枚のディスクが張り付くような挙動を見せます。実験中にも調子が良くなってくると一気にトルク負荷がかかり、うまく回せなくなるという状況もありましたので、もっと力強く駆動できる構造(タイミングベルトなど)の導入が必要かもしれません。

セクターレス版について

円盤上で発生していた放電については一つおもしろい情報を得ています。

銅箔の配置や大きさを変更することで抑制が出来たり発電効率の変化が見込めるのはウィムズハーストマシンの特長の一つです。が、どうやら世の中には銅箔自体が存在しない「セクターレス」のディスクを使用したウィムズハーストマシンというものがあるようです。

実はこちらのセクターレスディスクについても既に試作を開始しています。アクリル板業者に今回作成したプリント基板と同じ寸法のアクリル板を発注しており、今後こちらのセクターレスモデルのウィムズハーストマシンの動画も公開予定です。

セクターレスモデルにおいても、セクターありのモデルと同じように電荷の偏りを円盤上に作ることで動作をさせます。プラスに帯電している部分・マイナスに帯電している部分・ニュートラライザーで中性化される部分を回転する円盤上にシームレスに発生させることで電荷の偏りを高めていきます。

ウィムズハースト式誘導起電機工作、今回の10cm弱という結果ではまだまだ満足が出来ていませんので、こちらのセクターレスタイプで20cmの放電を目指していきたいと思います。

参考文献

最後に、今回の工作ではこちらの書籍を多分に参考にして製作を行ってきました。英語の本ではありますが恐らくウィムズハーストマシンの作り方についてこれ以上に詳しく解説している書籍はなかなか無いかと思いますので、是非気になる方はお手にとって見て下さい。

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さいごに

というわけで今回はウィムズハースト式誘導起電機(ウィムズハーストマシン)の大型版を作成、改良まであれこれ含めて色々と実験してきました。

実際に火花が出ている様子や組み立てについては動画のほうがわかりやすい場面も多いですので、是非こちらもあわせてご覧いただけますと大変嬉しいです。

それでは今回も最後までお付き合いいただき誠にありがとうございました。

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