ディスクリートオペアンプを自作する! 【回路図あり】

先日公開したディスクリートオペアンプを実際に自作する動画はみなさん見ていただけましたでしょうか。
その動画内で作成したディスクリートオペアンプの回路について、回路図を用いた詳しい解説シミュレーションファイルを公開します。

また、動画でも行っていた波形の解析などについても触れていきます。皆さんが実際に自作する際の参考にしていただけたら幸いです。

目次

ディスクリートオペアンプの回路構成

今回実際に組んだ回路の全体の構成がこちらです。
使用したトランジスタは2SC1815(NPNトランジスタ)と2SA1015(PNPトランジスタ)です。

電源は±15Vで、非反転増幅を行う回路です。
すこし見づらいですが入力のR2、帰還用のR3、出力負荷のR9を除いた部分が実際のオペアンプとなります。おおまかに4つのブロックに分かれていますので、それぞれ解説していきます。

入力段

まずこの部分が入力段の部分です。差動増幅回路になっていて、2つの入力(IN+, IN-)それぞれがPNPトランジスタ(Q1, Q2)のベース端子に繋がっています。その2つの入力の電圧の差分を増幅する回路です。

また、上部にあるトランジスタQ11はカレントミラーとして右の方にあるQ9とペアになっています。
下部のQ7,Q6とあわせてこの部分を抵抗に置き換えても回路として動作します。

電圧増幅段

この部分は電圧増幅段です。エミッタ接地増幅回路になっています。この部分の役割としては、入力段の差動増幅回路だけではまだ小さい電圧の振幅を、さらに増幅することです。この後段のトランジスタにもベース電流の供給を行っています。

NPNトランジスタのベースコレクタ間についているキャパシタ(C1)は位相補償用です。このキャパシタがないと位相余裕が足りなくなったときに回路が発振してしまうなど、動作が不安定になることがあります。

出力段

出力段はB級プッシュプル回路です。このQ4とQ5で電力増幅を行っています。 B級プッシュプル回路と書きましたが実際にはAB級の動作をしています。D1とD2の電圧降下によってAB級の動作を実現しています。熱暴走防止と出力電流の制限のために、出力負荷との間に抵抗(R7, R8)を入れています。

なお、この出力段については電圧増幅は行っていません。その代わりに電流の増幅を行うことで、結果として負荷に供給する電力を増幅することができるわけです。

基準電流源

最後になりますが、基準電流源のブロックです。これまで入力段や電圧増幅段を始めとしてトランジスタを複数使用しているわけですが、これらのトランジスタにバイアス電流を流すための基準電流を作っています。
Q9-Q10-Q11でカレントミラー回路を構成しています。

基準電流値はQ12のNPNトランジスタのベースエミッタ間電圧と、R4の抵抗によって決まります(I = Vbe/R4)。
Q9、Q8のトランジスタからのパスで基準電流が流れますが、この基準電流を入力段でも触れたカレントミラー回路で各段に流すことでしっかりとバイアスすることができるわけです。

また、全体の回路構成として、この基準電流源のブロックとカレントミラー回路を使用しなくても、トランジスタQ6,Q7, Q10,Q11を抵抗に置き換えてもオペアンプは作ることが出来ます。ただしこの場合、オペアンプに加わっている電源電圧が変動したときにバイアスの条件も変動してしまいます。

今回は電源電圧が変動してもトランジスタを一定の電流でバイアスするように作りたかったので、基準電流源とカレントミラー回路を使用することにしました。ちょっとリッチな構成になっています。

小話

基準電流源とカレントミラー回路を使用してバイアス電流を決めているわけですが、実はすべてのトランジスタに同じ電流を流すことは出来ません。トランジスタごとのVbe-Ic特性(と電流増幅率)が揃っていないからです。
気合を入れて作ったオーディオアンプですと特性の揃ったものを選別して使うこともあります。

ディスクリートオペアンプのLTspiceシミュレーション

ここまで回路図を用いて回路の構成について解説してきましたが、今回はみなさんにもLTspice上で回路のシミュレーションができるようシミュレーションファイルを公開したいと思います。以下のドロップダウンから表示してお使い下さい。

LTspiceのシミュレーションファイル全文を表示する

以下のコードを適当なテキストエディタにコピー&ペーストしたあと、任意の名前.ascで保存して使用して下さい。

Version 4
SHEET 1 1812 680
WIRE 304 -768 -176 -768
WIRE 1616 -768 384 -768
WIRE 0 -720 0 -912
WIRE 112 -720 0 -720
WIRE 656 -720 112 -720
WIRE 1072 -720 656 -720
WIRE 1280 -720 1072 -720
WIRE 1424 -720 1280 -720
WIRE 656 -704 656 -720
WIRE 752 -656 720 -656
WIRE 112 -624 112 -720
WIRE 1280 -624 1280 -720
WIRE 1424 -624 1424 -720
WIRE 752 -576 752 -656
WIRE 752 -576 176 -576
WIRE 1168 -576 752 -576
WIRE 1216 -576 1168 -576
WIRE 1072 -560 1072 -720
WIRE 1008 -512 864 -512
WIRE 1168 -512 1168 -576
WIRE 1280 -512 1280 -528
WIRE 1280 -512 1168 -512
WIRE 1424 -464 1424 -544
WIRE 1424 -464 1344 -464
WIRE 112 -448 112 -528
WIRE 112 -448 -16 -448
WIRE 240 -448 112 -448
WIRE 656 -448 656 -608
WIRE 864 -448 864 -512
WIRE 864 -448 656 -448
WIRE -1008 -416 -1008 -448
WIRE 656 -416 656 -448
WIRE 1072 -416 1072 -464
WIRE -16 -368 -16 -448
WIRE 240 -368 240 -448
WIRE -752 -336 -752 -448
WIRE -336 -320 -480 -320
WIRE -176 -320 -176 -768
WIRE -176 -320 -256 -320
WIRE -80 -320 -176 -320
WIRE 336 -320 304 -320
WIRE 656 -320 656 -352
WIRE -1008 -288 -1008 -336
WIRE -896 -288 -1008 -288
WIRE 1072 -288 1072 -336
WIRE 1616 -288 1616 -768
WIRE 1616 -288 1072 -288
WIRE 1680 -288 1616 -288
WIRE 1072 -256 1072 -288
WIRE -1008 -240 -1008 -288
WIRE 656 -240 656 -256
WIRE 656 -240 544 -240
WIRE 1424 -240 1424 -464
WIRE -896 -224 -896 -288
WIRE -368 -224 -496 -224
WIRE 336 -224 336 -320
WIRE 336 -224 -368 -224
WIRE 656 -224 656 -240
WIRE 848 -224 656 -224
WIRE 656 -208 656 -224
WIRE 1280 -192 1280 -416
WIRE 1360 -192 1280 -192
WIRE -752 -160 -752 -256
WIRE -16 -160 -16 -272
WIRE 112 -160 -16 -160
WIRE 240 -160 240 -272
WIRE 544 -160 544 -176
WIRE 544 -160 240 -160
WIRE 592 -160 544 -160
WIRE 1616 -144 1616 -288
WIRE -1008 -128 -1008 -160
WIRE -368 -128 -368 -224
WIRE 1072 -128 1072 -176
WIRE 1280 -112 1280 -192
WIRE -16 -80 -16 -160
WIRE 240 -80 240 -160
WIRE 848 -80 848 -224
WIRE 1008 -80 848 -80
WIRE 112 -32 112 -160
WIRE 112 -32 48 -32
WIRE 176 -32 112 -32
WIRE 1616 32 1616 -64
WIRE -16 64 -16 16
WIRE 112 64 -16 64
WIRE 240 64 240 16
WIRE 240 64 112 64
WIRE 656 64 656 -112
WIRE 656 64 240 64
WIRE 1072 64 1072 -32
WIRE 1072 64 656 64
WIRE 1280 64 1280 -32
WIRE 1280 64 1072 64
WIRE 1424 64 1424 -144
WIRE 1424 64 1280 64
WIRE 112 128 112 64
FLAG 112 128 V-
FLAG -1008 -448 V+
FLAG -1008 -128 V-
FLAG -896 -224 0
FLAG 0 -912 V+
FLAG -480 -320 IN-
FLAG -496 -224 IN+
FLAG 1680 -288 OUT
FLAG -368 -128 0
FLAG -752 -160 0
FLAG -752 -448 IN-
FLAG 1616 32 0
SYMBOL voltage -1008 -256 R0
WINDOW 123 0 0 Left 0
WINDOW 39 0 0 Left 0
SYMATTR InstName V1
SYMATTR Value 15
SYMBOL voltage -1008 -432 R0
WINDOW 123 0 0 Left 0
WINDOW 39 0 0 Left 0
SYMATTR InstName V2
SYMATTR Value 15
SYMBOL pnp -80 -272 M180
WINDOW 3 131 68 Right 2
SYMATTR InstName Q1
SYMBOL pnp 304 -272 R180
SYMATTR InstName Q2
SYMBOL res -240 -336 R90
WINDOW 0 0 56 VBottom 2
WINDOW 3 32 56 VTop 2
SYMATTR InstName R2
SYMATTR Value 1k
SYMBOL res 400 -784 R90
WINDOW 0 0 56 VBottom 2
WINDOW 3 32 56 VTop 2
SYMATTR InstName R3
SYMATTR Value 10k
SYMBOL res 1056 -432 R0
SYMATTR InstName R7
SYMATTR Value 27
SYMBOL res 1056 -272 R0
SYMATTR InstName R8
SYMATTR Value 27
SYMBOL diode 640 -416 R0
SYMATTR InstName D1
SYMBOL diode 640 -320 R0
SYMATTR InstName D2
SYMBOL cap 528 -240 R0
SYMATTR InstName C1
SYMATTR Value 33p
SYMBOL npn 592 -208 R0
SYMATTR InstName Q3
SYMBOL npn 1008 -560 R0
SYMATTR InstName Q4
SYMBOL pnp 1008 -32 M180
SYMATTR InstName Q5
SYMBOL voltage -752 -352 R0
WINDOW 123 24 44 Left 2
WINDOW 39 0 0 Left 0
SYMATTR Value2 AC 1
SYMATTR InstName Vin
SYMATTR Value SINE(0 500m 1k)
SYMBOL res 1600 -160 R0
SYMATTR InstName R9
SYMATTR Value 1k
SYMBOL npn 176 -80 R0
SYMATTR InstName Q6
SYMBOL npn 48 -80 M0
SYMATTR InstName Q7
SYMBOL res 1408 -640 R0
SYMATTR InstName R1
SYMATTR Value 10k
SYMBOL npn 1344 -512 M0
SYMATTR InstName Q8
SYMBOL pnp 1216 -528 M180
SYMATTR InstName Q9
SYMBOL pnp 720 -608 R180
SYMATTR InstName Q10
SYMBOL pnp 176 -528 R180
SYMATTR InstName Q11
SYMBOL res 1264 -128 R0
SYMATTR InstName R4
SYMATTR Value 470
SYMBOL npn 1360 -240 R0
SYMATTR InstName Q12
TEXT -1040 200 Left 2 !.tran 10m
TEXT -8 224 Left 2 ;Differential amplifier
TEXT 560 216 Left 2 ;Common emitter
TEXT 944 208 Left 2 ;Push–pull transistor\noutput stage
TEXT 1272 208 Left 2 ;Reference current source

試作と動作の確認

ブレッドボード上で組んでみる

LTspiceで設計した回路図から実際にブレッドボード上で試作してみるとこのようになります。右下にある基準電流源の電流は可変抵抗(回路図のR4)を使って調整しました。 数百μA~1mA程度流せば十分かと思います。

次の項目からはこちらのブレッドボード上の回路を実際に動かして、オシロスコープで特性を評価していきます。

実際の波形


電源を入れてオペアンプが問題なく動作しているか確認します。
反転増幅回路で増幅率は10倍に設定しました。(R2=1kΩ, R3=10kΩ)
オシロスコープの上半分に表示している黄色い波形が入力電圧、下の赤い波形が出力の電圧です。

オシロスコープの波形を見てみると、黄色い波形に比べて赤い波形は位相が反転して表示されています。これは反転増幅回路として動作しているからです。 オペアンプをディスクリートで自作することに成功しました。また、出力電圧は入力電圧の10倍になっています。

ただし、電源電圧(±15V)よりオペアンプの出力電圧を大きくしようとすると出力電圧はクリップします。

また、周波数の高い信号を増幅 or 出力電圧が大振幅となるような条件では、 オペアンプのスルーレートの低さが原因となり、波形は歪みます。 その結果、 増幅率は低下します。入力電圧と出力電圧のBode線図を書いてみるとよくわかります。

反転増幅回路の周波数特性

以前アナログ・デバイセズの案件で使用したADALM2000を使って、 入力電圧と出力電圧のBode線図を取得しました。回路は反転増幅回路で、 増幅率は1, 10, 100に設定しました。 電源電圧は±15Vです。

増幅率1倍、 入力電圧1.0V

増幅率10倍、 入力電圧0.1V

増幅率100倍、 入力電圧0.1V

まとめ

回路定数もトランジスタの選定もかなり適当ですが、 そこそこ動作するオペアンプを自作することはできます(性能や安定性は保証できないが)。
皆さんも、上の回路を参考にしてオペアンプを自作してはいかがでしょうか。

動画で確認する

動画の方ではさらに音源として「改造呼び込み君」などを接続し、ディスクリートオペアンプでスピーカを鳴らす実験をしています。ぜひ動画のほうも見て下さい。

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コメント

コメント一覧 (1件)

  • ディスクリートで成功してしまうと、ついついヘッドホンアンプ用に魔改造しちゃいますね。
    モジュール化しちゃったりなんかして。

    秋月のOPアンプ基板のOPアンプ部分に挿し込んで使えるように。
    ただ2回路入りだと2回路をどうやっていけばいいか。

    もう表面実装しかなくなります。
    かなり詰め込んでSC-70パッケージのトランジスタでやっとOPアンプより一回り大きいくらいに収まりました。 SC-59で無理やりやらなくてよかったかもしれません。

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