手頃に扱える充電池として単3乾電池型のニッケル水素充電池(Ni-MH電池)が昔から重宝されています。今回はそんなニッケル水素充電池について、どこのブランドのものが一番長持ちで、そしてコスパについてはどの程度差があるのか詳しく検証していきたいと思います。
いつものように動画もYouTubeで公開していますので、是非そちらも合わせてご覧頂けると嬉しいです。
今回用意した電池について
今回用意したニッケル水素充電池は全部で17種類です。よくある日本の家電メーカー/ブランドのものから、Amazonで購入できる中華ブランドのものも含めて幅広く用意しました。
なお、今回使用した電池については本記事末尾に全てまとめています。イチケンのおすすめ順に並べていますので、是非チェックしてみて下さい。
電池の詳細
まず今回用意したニッケル水素充電池は以下の表のとおりです。
No | ブランド | 公称容量 | 重量(一本あたり) | 製造年月 | 製造地 |
---|---|---|---|---|---|
01 | エネループ(標準) | 2000mAh | 27.0g | 2024/01 | 日本 |
02 | エネループ(プロ) | 2500mAh | 30.2g | 2024/01 | 日本 |
03 | エネループ(ライト) | 1050mAh | 18.8g | 2023/12 | 日本 |
04 | 富士通(大容量) | 2450mAh | 30.2g | 2023/06 | 日本 |
05 | 富士通(スタンダード) | 1900mAh | 26.3g | 2023/08 | 日本 |
06 | 東芝 インパルス | 2400mAh | 28.8g | – | 中国 |
07 | 東芝(スタンダード) | 1900mAh | 25.7g | 2023/02 | 日本 |
08 | アイリスオーヤマ(大容量) | 1900mAh | 25.5g | 2022/09 | 日本 |
09 | アイリスオーヤマ(小容量) | 950mAh | 18.1g | 2023/10 | 日本 |
10 | Amazonベーシック (大容量) | 2400mAh | 28.5g | 2023/11 | 中国 |
11 | Amazonベーシック (スタンダード) | 2000mAh | 26.9g | 2023/11 | 中国 |
12 | POWXS | 2800mAh | 27.2g | – | 中国 |
13 | enevolt | 3000mAh | 30.8g | 2023/11 | 中国 |
14 | POWEROWL | 2800mAh | 26.9g | – | 中国 |
15 | Bonai | 2800mAh | 27.3g | 2023/05 | 中国 |
16 | GoldenPower(秋月) | 2000mAh | 27.0g | – | 中国 |
17 | タミヤ ネオチャンプ | 950mAh | 18.0g | 2023/09 | 日本 |
基本的に日系メーカーの電池は日本製、それ以外は中国製となっています。それぞれの項目についてもグラフで比較していきます。
公称容量
公称容量をまとめるとこのような形となりました。概ね日系メーカーのものが2500mAhまで、その他海外メーカー製品になると2800mAh程度の公称容量となっています。
こちらの公称容量が実際の電池容量とどの程度一致しているかについても後で検証します。
電池の質量
次に電池一本あたりの重さをまとめたグラフがこちらです。複数本の平均を取っています。
基本的にニッケル水素充電池では容量が増えるほど重量も増加します。これは内部の構造によるもので、内部でロール状に巻かれている素子の巻き回数が増えるためです。
製造時期
今回購入したニッケル水素充電池の製造時期ですが、思いの外バラつきが出ました。一番製造時期が近かったのはエネループで約二ヶ月前でした。このあたりについては現在のパナソニックが販売するよりも以前、SANYOが製造していた頃1から知名度のあるブランドですので、やはり在庫の回転率も良いのかもしれません。
- なお、日本のNi-MH電池製造についてはかなり複雑で、ものすごくざっくり説明すると「東芝 → SANYO(FDKトワイセル供給)→ SANYO,Panasonic合併 → FDKトワイセル,FDK合併」といったような背景があります。一部メーカーを除き大多数が高崎で製造されています。 ↩︎
放電試験(準備)
ここからは本題のニッケル水素充電池の容量測定など、放電試験を行っていきます。
測定方法
今回測定を行うにあたり参考にした計測方法としてJIS C 8708 : 2019
があります。これは「ポータブル機器用密閉型ニッケル・水素蓄電池の規格に関する文書」で、この中で定められている放電試験の大まかな条件が次のとおりです。
- 製造から2ヶ月以内の電池を用いること
- 0.1Cのレートで16時間充電を行うこと
- 0.2Cのレートで5時間放電を行うこと
- 放電の終止電圧は1.0Vとすること
このうち「0.1Cで16時間充電」については普段みなさんが使用する際の充電方法とかなりかけ離れており、あまり現実的とは言えません。そのため今回は充電にPanasonic製のBQ-CC63という8本同時に充電できる充電器を使用しました。
こちらの充電器を使用することで実際の使用状況に近い測定を行うことが出来ます。
また、前述の通り製造から2ヶ月以内の電池を使用するという条件も一部を除いて満たせていません。ですので、今回の測定結果についてはあくまで参考数値とします。
補遺
今回使用した17種類のニッケル水素充電池ですが、放電試験を行う前に3回ほど満充電→完全放電を繰り返して、電池の活性化処理を行いました。購入したときの条件よりはある程度条件を揃えられたのではと思います。
(この時点で一週間程かかりました)
セットアップ
ちなみに今回の放電試験についてはこのようなセットアップで行いました。
通常の電池ケースを使用した場合接点と電池の端子の接触抵抗が大きく、放電効率が変わってしまうため正確な試験を行うことが出来ません。そのため今回はクランプに配線を剥いたものを貼付け、しっかりと電池の電極に押し当てるようにして放電試験を行います。
この方法であれば接触抵抗を大幅に減らすことが出来ますし、配線についても電池ケースに最初からついているものよりだいぶ太くなっていますので、電圧降下の影響もゼロに近づきます。
放電試験の結果
まず次のグラフが放電試験の結果です。縦軸はニッケル水素充電池の電圧で、横軸が放電時間となっています。
このグラフの見方ですが、時間軸の左が放電を開始した直後。時間軸の右側が放電の終わりの方です
放電レートは先に説明した通り0.2Cで、放電終止電圧は1.0Vです。5時間経過した時点で1.0Vより電池の電圧が高ければその電池は公称容量を満たしていると言えます。
日本勢の結果ですが、大体同じような放電曲線を描いていることが分かります。中華ブランドの電池については規定時間の5時間の放電を達成することが出来ないものがほとんどでした。enevoltについては多少性能はマシでしたが、基本的に容量詐欺と言って良いでしょう。価格以外におすすめできる要素はありません。
それでも多くの電池については4時間40分程度は放電可能という結果になりました。
公称容量以上の電池を持っていることがはっきりと分かったのは秋月電子で取り扱っているゴールデンパワー(2000mAh)とタミヤのネオチャンプのみという結果になりました。その中でもネオチャンプについては放電試験中の電圧が他のものと比べて少し高い印象です。
タミヤのネオチャンプについてはミニ四駆などで使うことが想定されているかと思います。そのため、よりモーターを力強く回転させるために通常のニッケル水素充電池と比べて電圧が高くなるようなチューニング(製造の工夫)をされている可能性があります。が、詳細は不明です。
恐らく販売数は多いであろうAmazonベーシックについて、特に大容量のものについて容量が少なそうだという測定結果になりました。同一パッケージ内に入っていた他のセルも試してみましたが測定結果に差はありませんでした。
補遺
今回の測定結果で本来の容量である0.2C×5時間を達成する充電池が少なかったことの要因の一つに、充電方法がJISCで定められた方式と違うことが挙げられます。Panasonic製の通常の充電器を使用しています。
このため、5時間の放電に耐えられた電池に関してはその時点で公称容量を持っていると言って良いでしょう。
所感
放電試験の結果を見る限りでは、日本勢の場合においてはどの電池ブランドを購入しても特に問題のある製品は少なく、また、性能も同じような特性をしていましたのでどれを購入しても問題ないかなと言った所です。製造年月が選べるようで新しいものを選択的に購入するとよいかと思います。
その他中華ブランドの製品については容量詐欺が目立つ結果となりました。
容量測定
前述の放電試験を行うと同時に、それぞれのニッケル水素充電池が持つ実際の容量についても算出しました。
電池容量の測定結果
まず公称容量と実測の容量を並べたグラフがこちらです。左の青色が製品記載の公称容量で、右のオレンジ色が実測の容量です。
日系メーカーの製品については公称容量と実測の容量の差はほとんどありません。一部若干少ないものもありますが、測定の誤差の範囲内かと思います。Amazonベーシックのものは2400mAhの大容量の製品で少し実測値との差が見えます。
2800mAhと比較的大きめの公称容量を記載していた右側中華ブランドのニッケル水素充電池についてはどれも公称と実測でかなりの差があるようです。放電試験の結果でも見えていましたが、これは容量詐欺と言って良いでしょう。
実測値
ちなみにそれぞれの容量測定の実測値は次のとおりです。
公称容量との差について
公称容量と実測の容量の差について表したグラフが次のものです。左側にある物ほど公称容量を満たしている製品です。
左側2つ、タミヤのネオチャンプとゴールデンパワーについては公称容量を上回る容量となっていました。その他のニッケル水素充電池についてはどれも公称容量を下回る結果となっています。
実測の容量が減ったものについてですが、その中でも日系メーカーのものについては誤差として5%以内に収まっている結果です。充電方法が正規の手順と異なる点を考慮すると誤差の範囲内と言ってよいでしょう。
ただし、Amazonベーシック大容量は7.6%、その他中華ブランドについては概ね10 ~ 30%程度実測と公称の容量に誤差があります。Amazonベーシック大容量の場合は182mAh、中華ブランドは300から最大で800mAh程度も少ない計算となりますので、なかなか容量詐欺の影響は大きいです。
コストパフォーマンスについて
どの製品を購入するかを判断する際、容量については大切なパラメータの一つです。しかし実際には販売価格も考慮しなければいけません。
ここからはコストパフォーマンスの評価ということで、一本あたりで見た場合と容量あたりで見た場合の単価について計算してみます。
1本あたりの価格を比較
まずは一本あたりの販売価格です。記事作成当時(2024年3月)の日本Amazon上での販売価格を参考にしています。Amazonで取り扱いのないものについてはヨドバシカメラなど、その他購入先での価格も含まれます。
こちらのグラフでは左側にいくほど1本あたりの価格が安くなる銘柄で、中華メーカーのBonaiが1本あたりの価格が一番安くなるという結果になりました。1本あたり180円です。
その次にAmazonベーシックとPOWEROWL、東芝インパルスと中国製のブランドが並びます。やはり生産国の違いについてはコスパにかなり効いてくる様です。
日本製で見ると富士通のニッケル水素充電池もなかなか健闘しているようです。ただしパナソニックのエネループシリーズについてはライトを除き1本あたり500円程度と、消して安いとは言えない価格となっています。
価格あたりの実測容量
また、一本あたりの価格と実測の容量をもとに、価格あたりの容量についてもグラフにまとめました。
こちらのグラフの縦軸は価格あたりの容量を表し、一円あたり何mAhの容量があるのかを表します。また、グラフの左側にある銘柄ほどコスパが高い製品となります。
今回のグラフでは中華ブランドのBonaiが一番コスパが高い製品という結果になりました。公称容量より実測がかなり低いという容量詐欺をしている代わりに、実際の1本あたりの販売価格をかなり下げているためこのような結果となっています。
なお今回のグラフをみてみるとタミヤのネオチャンプが、価格あたりの容量について一番コストパフォーマンスが悪いという結果になりました。容量の割に販売価格が高いということですが、実際の放電特性を思い出してみると放電中の電圧が高いなど、特徴がありました。
したがって、タミヤのネオチャンプに限らず、実際に製品を選ぶ際には価格以外に電池そのものの性能についても考慮しなければいけません。
散布図
ここまでの結果をもとに散布図を作成しました。横軸は実測の容量、縦軸が価格あたりの容量を表しています。
このグラフでもコスパを見ることが出来ます。グラフの右下にある銘柄ほどコスパが高く、対角線の左上側の方がコスパは悪い、また、右上の辺りにある銘柄については容量は大きいものの価格も比例して高くなっている銘柄です。
こちらのグラフにパレートフロント(多目的最適化)として直線を設定してみると次のような形になります。
赤い点で表している3つの銘柄について、(今回試験した電池の中では比較的)コスパに優れている銘柄であるといえる結果になりました。
- Bonai
容量詐欺が27%に及ぶが、低価格であるため高コスパであるといえる - Amazonベーシック(小容量)
公称容量より7.6%ほど容量は少ないが、やはり価格に優れているため高コスパであるといえる - 東芝 インパルス
公称容量との誤差がほぼ無く、2400mAhと大容量のため高コスパであるといえる
繰り返し回数
今回の実験ではニッケル水素充電池の繰り返し充電回数については特に試験していません。
これは充放電を繰り返すのにかなり時間がかかってしまうことと、繰り返し充電回数を試験するためのJIS規格が2019年頃に変更されており、メーカーによっては違う規格をもとに表記している可能性があるためです。
この辺りの解説については Panasonicエネループ のサイトが大変参考になります。
JIS規格について
なお、当該のJIS規格は日本産業標準調査会(JISC)の定める JISC8708:2019 ですが、JIS規格の本文は会員登録をしないと閲覧することが出来ません。幸いにも kikakurui.com というサイトでHTML化された本文が掲載されていますので、以下にそちらのリンクを付しておきます。
おまけ
また、電池を繰り返し充放電した際の容量低下について調査している有志の方をインターネット上で見かけますが、「居酒屋ガレージ日記」様のサイトが大変参考になりましたのでこちらもリンクを掲載させていただきます。
内部抵抗測定
容量の測定の次は内部抵抗の測定も行いました。
通常の乾電池とは違うニッケル水素充電池の使用場面として、ある程度パワーが要求される物への仕様があるかと思います。内部抵抗の大きさによって電流をたくさん流した際の電圧降下が変わってきますので、内部抵抗も重要です。
測定条件
測定条件ですが、今回は以下の条件と手順で測定を行いました。
放電を行う前の開放状態の電圧を測定しておきます。
電池を1Aで放電させます、今回は定電流モードの電子負荷を用いています。
放電中にどの程度電圧が降下するか測定します。また、測定は放電開始から10秒経過時の数値を取得します。
測定した降下電圧 ≒ 起電力をもとに、内部抵抗 \([R]\) を \(\frac{電圧[V] – 起電力[V]}{電流[A]}\)で求めます。
測定結果
こちらが内部抵抗の測定結果です。どの電池も内部抵抗について大きな差はなく、40mΩから50mΩの間に収まる結果となりました。
内部抵抗が一番低かったものは富士通の大容量品で、38mΩという結果です。大電流を流す目的でニッケル水素充電池をお探しの場合には、このグラフ左側の製品から選択してみるのも良いかもしれません。
内部抵抗は放電電流の値によって非線形的に変化します。また、繰り返しになりますが今回使用した電池の生産時期など揃っていませんので、測定結果についてはあくまで参考値として下さい。
まとめ
というわけでここまで17種類のニッケル水素充電池について、どれが一番コストパフォーマンス・性能が高いのかについて検証してきました。
今回測定した限りでは東芝インパルスが一番コスパが高そうだという結果に落ち着いています。ただし、東芝インパルスは今回使用した中国製のもの以外にも日本やインドネシア製造のロットもあるとのことですので、結果は変わる可能性があります。
また、余談ですが日本国内におけるニッケル水素充電池(Ni-MH電池)製造については、一部のメーカーを除きFDKがOEM供給する製品が多くなってます。はっきりと確かめてはいませんが、今回使用した電池の中でも製造工場が同じものはいくつも混ざっているはずです。
なお、今回の検証ですが、ニッケル水素充電池を「どの程度の期間使い続けられるか」≒「繰り返し充電した場合の耐久値」については試験できていません。
二次電池を購入する際に繰り返し充電できる回数というのも非常に重要なスペックの一つかとは思いますが、恐らく頑張っても数ヶ月単位で実験に時間がかかってしまいますので、今回は調査を見送りました。
ただし、短期的に使用するうえではコストパフォーマンスに優れたニッケル水素充電池がどれかというのは十分調査できたかと思いますので、そういった点については是非参考にしていただければと思います。
それではここまでお付き合い頂きありがとうございました。以下に今回使用したニッケル水素充電池の購入リンクを一件おすすめ順に並べていますのであわせてどうぞ。また、動画もまだご覧頂いていない場合には是非ご視聴下さい。
おまけ:今回使用したものなど(アフィリエイトリンク)
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- POWEROWL https://amzn.to/43sDKEr
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【追記】
2024/08 一部リンクを修正しました
コメント
コメント一覧 (4件)
大変参考になる記事でした!検証ありがとうございます。
グラフ中ところどころAmazon(小)とAmazon(大)が逆になっているような気がするのですが、どうでしょうか?
ikeaの充電池はどうでしょうか?
生産国が不明なので内容に関しては何とも言えませんが価格は非常に安いので良さそうだなと
富士通(小)のアフィリンクが単4ですね
ありがとうございます。 修正します。